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健康日本21(総論)

はじめに

 健康日本21は、新世紀の道標となる健康施策、すなわち、21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による国民健康づくり運動である。これは、自らの健康観に基づく一人ひとりの取り組みを社会の様々な健康関連グループが支援し、健康を実現することを理念としている。この理念に基づいて、疾病による死亡、罹患、生活習慣上の危険因子などの健康に関わる具体的な目標を設定し、十分な情報提供を行い、自己選択に基づいた生活習慣の改善および健康づくりに必要な環境整備を進めることにより、一人ひとりが稔り豊かで満足できる人生を全うできるようにし、併せて持続可能な社会の実現を図るものである。

 厚生省では約1年半にわたって、多数の有識者や専門家により、日本のこれまでの健康づくりの実績や世界の公衆衛生活動の成果を踏まえて、高齢に達せずに死亡する早世と障害を減らし、人生の中で健康で障害の無い期間、いわゆる健康寿命を延伸するための具体的な方策について議論を重ねてきた。今回、その成果を基に、国民、そして健康に関連するさまざまな団体に対する提言としてまとめたものである。
なお、今後、国民の健康寿命の延伸及び生活の質の向上を図るうえでの、母子保健など他の重要な課題についても検討を進め、21世紀における国民健康づくり運動をさらに拡充していくこととしている。
この健康日本21(総論)では、まず、我が国の健康水準、健康増進施策の世界的潮流について概括した後、健康日本21を推進する際の基本戦略、地域で取組を展開する際の留意点などについて記述する。
 


第1章 我が国の健康水準

第1節 超高齢少子社会日本の健康課題
 健康状態を示す包括的指標である「平均寿命」について見ると、我が国は先進諸国間で、戦後、最下位であったものが、その後、比較的短期間にすべての先進国を追い抜き、昭和59年(1984年)から今日まで、世界一の健康水準を示している。特に、女性の寿命は2位との差がますます開きつつあり、人類としての寿命の到達目標とさえ見なされている(図1-1)。この成果は、日本の高い教育・経済水準、保健・医療水準に支えられ、国民全体の努力によって成し遂げられたと考えられる。
 日本人の寿命が戦後急速に伸びた背景には、「感染症」などの急性期疾患が激減したことがあげられる。一方、がんや循環器病などの「生活習慣病」が増加し、疾病構造は大きく変化してきた(図1-2)。さらに最近では、「寝たきり」や「痴呆」のように、高齢化に伴う障害も増加している。これらの疾患は生命を奪うだけでなく、身体の機能や生活の質を低下させるものも多く、予防や治療においては、日常生活の質の維持も重要な課題の1つとなっている。こうした生活習慣病の予防、治療に当たっては、個人が継続的に生活習慣を改善し、病気を予防していくなど、積極的に健康を増進していくことが重要な課題となってきている。
 一方、急速な出生率の低下によって、人口の高齢化が進展し、20年後の平成32年(2020年)には4人に1人が、50年後の平成62年(2050年)には3人に1人が老人という超高齢社会になる。また、平成19年(2007年)からは人口が減少し始め、平成62年(2050年)には1億人を切ると予測されている(図1-3)。
 このような超高齢少子社会を人類は未だかつて経験したことはなく、21世紀の日本は、疾病による負担が極めて大きな社会となると考えられる。高齢化の進展によりますます病気や介護の負担は上昇し、これまでのような高い経済成長が望めないとするならば、病気を治すこと、あるいは介護のための社会的負担を減らすことが重要である。よって、我が国にとって、より健康な社会を目指すことが、21世紀の大きな課題となるのである。

OECD29ヶ国における平均寿命の経年変化(1960−96)

我が国における死因別死亡割合の経年変化(1899−1998)

日本の人口推移と将来推計

第2節 健康価値観の多様化
 戦争直後と比べると、今日、早世の可能性は低くなってきた(図1-4)。しかし、なお65才未満で死亡する確率は11%以上あり、また、前述したように、死ぬ前の数年間を寝たきりや痴呆で過ごす者の割合も決して少なくないのが現状である。このような状況の中で、人生の各段階でそれぞれ、いかに質の高い生活を楽しみ、満足した生涯を送ることができるかが個人の大きな課題となっている。
また、最近の世論調査でも、健康に関連したことが国民の大きな関心事となっている(図1-5)。豊かさや満足は個人にとって様々であり、それぞれの価値観によって決まるものであるが、個人が自らの周辺にある資源を活用して、病気による早世や障害を防ぎ、豊かで満足できる生活を追求する時代となった。

我が国における女性の生存曲線の推移

国民生活における関心事項の割合


第2章 健康増進施策の世界的潮流

 健康増進(Health Promotion)の考え方は、もともと1946年にWHO(世界保健機関)が提唱した「健康とは単に病気でない、虚弱でないというのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」という健康の定義から出発している。1950年代にクラークとレベルらによって一次予防の中に健康増進が位置付けられた。この時代の「健康増進」は、感染症予防における一般的抵抗力の強化や、健康教育によって感染機会を避けることを意味していた。
 後述するが、ラロンド報告が発表された時代になると、健康増進は、疾病とは対比した理想的な状態、すなわち健康を想定し、それを更に増強することを意味する概念的な定義がなされた。一方、米国のHealthy Peopleで応用された際には、個人の生活習慣の改善を意味している。
 1980年代に入って健康増進はもう一度捉えなおされ、個人の生活習慣の改善だけでなく、環境の整備を合わせたものとして改めて提唱された。このように健康増進という考え方は時代によって内容が変遷している。

第1節 ラロンド報告/アルマアタ宣言
 第2次大戦後、臨床医学はめざましい技術革新を遂げ、病気の治療に貢献してきた。1970年代になると、臨床医学は更に高度化され、種々の新しい治療法が開発された。しかし、一方で、医療費の増高による負担の問題や、集団全体に対する治療の意義へ疑問が生じ、医療のあり方が問われることとなった。このような中で、1974年にカナダのラロンド保健大臣による報告書が発表された。
 ラロンドの報告は、公衆衛生活動をそれまでの疾病予防から健康増進へ重点を移し、宿主と病因という病気の決定要因を、単一特定病因論から長期にわたる多数の要因に基づく原因論に再構築するものである。この報告を出発点に、いわゆる新公衆衛生運動が欧米に拡がっていった(図2-1)。
 また、当時の疫学の発達による病因の解明や、公民権運動、人権運動による住民参加の高まりも、疾病予防の重要性が再認識され、運動が世界的潮流となった理由として挙げられる。予防活動は保健医療関係者のみならず多くの人々を巻き込んで活動するという、新たな視点を我々に提示した。
 ラロンド報告やマッキューン教授の研究結果を受け、当時のマーラーWHO事務局長は1978年、ソ連のアルマアタにおいて宣言し、医療の重点をこれまでの高度医療中心から予防を含む1次医療、すなわち「プライマリ・ヘルス・ケア」に転換するよう提唱した。

第2節 ヘルシーピープル/HFA(Health for All) 2000
 1979年、ラロンド報告の基本概念に基づいて、米国厚生省のマクギニス技官はHealthy Peopleという新たな国民的健康政策を打ち出した。この新政策の特徴は疫学や健康への危険因子を重視し、特に個人の生活習慣の改善による健康の実現に重点を置いたものであった。Healthy Peopleでは、科学的に立証された数値目標を人生の年代別で設定し、国民運動としてその目標を達成する手法をとっている
 目標を設定し、健康の改善を目指すという手法は1980年代には世界中に拡がった。特にヨーロッパでは、1982年に提唱された「西暦2000年にすべての人に健康を」運動(HFA2000)の一環として、目標を設定することに同意し、32ヶ国で12の領域における約200の指標が設定され、運動が推進されている。また、スウェーデンのように年齢階級別の目標を設定した国もある。

第3節 ヘルシーシティ/オタワ宣言
 1980年代の後半になると、個人の努力に基づいた予防活動に対する批判が展開され始めた。予防は個人のみで実現できるものではなく、社会環境の整備、資源の開発が必要であり、病気になった人をいたずらに非難することは避けるべきということである。そこで、1986年、キックブッシュらは町全体の環境を健康増進に寄与するように改善された健康都市(Healthy City)を想定し、ヨーロッパを中心に環境改善運動の推進を提案した。
 この運動はヨーロッパから世界に拡がった。同年、カナダのオタワで健康増進に関する国際会議が開かれ、健康増進を個人の生活改善に限定してとらえるのではなく、社会的環境の改善を含むことを確認し、オタワ宣言として採択された。

第4節 目標指向型健康増進施策
 その後、環境整備によってそれぞれの国民の健康を改善しようとする国が増加した。米国では第2期のHealthy Peopleの目標を2000年に置き、Healthy People 2000として新たに22の優先順位領域と300の目標設定を行ったが、現在は2010年を目標年度とするHealthy People 2010を策定中である。
 英国は1992年、サッチャー政権下の国営医療制度改革の一環として、The Health of the Nation(健康な国)という新しい健康政策を1992年に発表した。これは5つの疾病を主な領域とし、26の目標が設定されている。1998年には労働党政権により、Our Healthier Nation(我々のより健康なる国)という新戦略の策定が開始されたが、基本的にはThe Health of the Nationと同じ手法を継承している。
 カナダでも1992年、ケベック州で、The Health and Well-Being(健康と豊かな生活のための政策)、オンタリオ州で1993年、Nurturing Health(健康の育成)という政策が始められている。

新公衆衛生運動の歴史


第3章 基本戦略

第1節 基本方針
 健康増進施策を効率よく有効にすすめるには、「戦略計画」と「執行計画」をそれぞれ立てることが必要である。そして、計画に基づいて執行された結果が評価され、次の計画に反映されるという計画・執行・評価(plan-do-see)のフィードバックサイクルを確立しなければならない。
 戦略計画は長期的な方向を指し示すための理念や目的に重点を置いた計画であり、全体的状況を把握できる立場の者が策定する。一方、執行計画は施策を効率よく執行するため手段の選定や資源の配分に重点を置いた計画で、現場に近い担当者が策定することにより、実効性の高い計画となる(表3-1)。
戦略計画には一般に「展望」、「理念」、「目的」、「目標」がある。
 「展望」は計画全体を俯瞰し、参加者全員が向かうべき方向を示す指針となるものである。
 「理念」は計画の基本的な考え方を示し、参加者にとっての行動規範となるものである。
 「目的」は計画の目指すべき具体的な到達地点を示し、参加者によって共有されるべきものである。
 「目標」は計画の目的を数値化した指標であり、参加者によって共有されるべきものである。
 戦略計画では現状分析と優先順位付けを行い、参加者を同定する。そして計画推進のための必要な「資源の開発計画」を策定する。
 執行計画は、具体的活動の手順など実務的な内容を含む計画である。
 健康日本21の場合、この報告書が国全体の戦略計画である。これを参考に、自治体や保険者等健康増進活動を支える健康関連グループがそれぞれに計画を立てることが望ましい。地方レベルおいても関係者を調整し、資源を開発し、その地方を一つの方向に導くため戦略計画を立てることが重要である。
 また、国、都道府県等では、取組の結果を「評価する基準」と「追跡するための情報システム」の構築が極めて重要となる。

表3-1 戦略計画と執行計画

2つの計画
目的
期間
要素
策定者
必要となる資源
戦略計画
予測に基づき
方向性を決定
長期
展望  参加者
理念  資源開発法
目的  評価基準
目標  追跡システム
対象  情報収集
全体を把握す
ることができる
位置にいる者
主に計画と追跡
と支援のための
もの
執行計画
戦略を効率
効果よく執行
短期
目的
目標
資源
手順
評価法
現場に近い者
主に執行と追跡
のためのもの

1.展望
 日本は経済のみならず、世界一の平均寿命を持つ、健康においても世界の大国となった。しかし、今、日本は21世紀に向けて新しい挑戦、つまり人類が経験したことのない高齢社会に向け、高齢者が生き生きと暮らせる社会づくりを目指さねばならない。健康日本21は21世紀における国民の健康寿命の延長を実現するための健康政策である。日本は世界に先駆けて新しい社会づくりを行うこととなる。
 21世紀の超高齢少子社会を持続可能なものにするためには、外国や日本での健康づくりの成果を活用し、将来の病気や社会の変化を考慮して新しい健康政策を推進する必要がある。

2.理念
 健康を実現することは、元来、一人ひとりが主体的に取り組む課題である。自分の健康の意味とあり方を「発見」し、これを達成するための方法や資源を「選択」し、生涯を通じた健康づくりの「設計」を行い、これに基づいて自分の健康を「実現」するという過程が必要である。
 一方、個人を取り巻く社会には、マスメディア、企業、非営利団体、職場・学校・家庭、保険者、専門家などの、健康関連グループがあり、制度、情報、商品、サービスなどの健康資源の提供を通じて、個人の健康の実現に大きく貢献することができる。また、社会の側から健康資源を用意するだけでなく、個人の選択のための情報提供を行っていく必要がある。健康関連グループの各構成主体は異なった特徴を持っているので、それぞれの利点を生かしながら連携し、個人を支えていくことが極めて重要である。
 なお、この中で健康を実現する個人は、健康関連グループに対し、その機能を高めていくよう働きかけることもできる。また、健康関連グループの一員として、他者の健康の実現に貢献することができる。
つまり、健康日本21の理念とは、個人の力と社会の力を合わせて、一人ひとりの健康を実現することである。健康日本21を成功させるためには、個人と健康関連グループが、健康日本21の展望、理念、目的及びそれぞれの役割をよく理解し、取り組むことが必要である。

3.目的
 健康日本21の目的は、社会からみると病気や障害による社会的な負担を減らし、国民の健康寿命を延長して、活力ある持続可能な社会を築くことにある。また人の死を最終的に予防することが不可能である以上、病気予防の重点は早世に置くべきといえる。一方、個人からみると、早世と障害を予防し、生活の質を高めることによって、稔り豊かで満足できる生涯づくりを目指すことにある。
 健康日本21の目的を社会全体として、あるいは個人の生涯という観点から達成していくためには、人生の段階別に課題を捉え、対策を講じていくことが必要である。健康の課題は年齢・世代によって異なっており、さらに人生の各段階の結果が次の段階、あるいは最終的な結果に影響を及ぼすからである。

4.目標
 目標については次章に詳述する。

第2節 対象集団への働きかけ
1.1次・2次予防施策との整合性
 疾病の自然史に基づいて病気を予防する方法には、三つの段階がある。まず、病気の原因をもとから絶つ1次予防には、個人の生活習慣や環境や医療の観点に基づいた三つの予防法がある。まず、第一には、個人の生活スタイルの改善を通した健康増進(Health Promotion)であり、運動・栄養や喫煙・飲酒対策が含まれる。第二に、環境における危険因子の削減を目指す健康保護(Health Protection)があり、職場の安全や健康、環境保健とが含まれる。第三に病気の発生の予防を目指す疾病予防(Disease Prevention)があり、感染症予防や母子保健、循環器疾患の予防がこれに含まれる。しかし、実際には健康の決定要因はそれぞれお互いに影響しあっており、この三つを純粋に分割することは難しい。
 次に病気の早期発見、早期治療である第二段階(2次予防)がある。2次予防は元来、疾病発見(case finding)とリスク発見(risk finding)に分けられる。前者では多数の対象者の中から少数の異常者を発見するため、効率と精度管理が重要であり、後者では、発見した対象のリスクを低減していかなければならないため、追跡管理システムが重要である。第三段階(3次予防)はリハビリテーションで、社会的不利の予防である。
 健康日本21においては、1次予防、2次予防に属する個々の手法について、科学的根拠に基づいた評価を行い、最適化された組み合わせを採用すべきである。 近年、米国を中心に、HMO/PPSによるマネージド・ケアのなかの一手法として疾病管理(disease management)が発達してきているが、これは一人の患者を予防からリハビリテーションまで一貫して追って、それを効率良くかつ効果的に管理する手法であり、いわばこの古典的分類に基づく手法の現代への応用ということができる。

2.高リスクアプローチと集団アプローチ
 健康障害を起こす危険因子を持つ集団のうち、より高い危険度を有する者に対して、その危険を削減することによって疾病を予防する方法を高リスクアプローチ(High risk approach)と呼び、集団全体で危険因子を下げる方法を集団アプローチ(Population approach)と呼ぶ(図3-1)。
 例えば、高血圧の場合、臨床的高血圧のグループを見つけ出し、強力な治療、例えば降圧剤で血圧を下げることによって、そのグループの合併症の頻度は低下させることができる。しかし、将来、脳卒中などの重大な合併症に罹る実際の人数は、現在高血圧域の人より境界域の人数の方が圧倒的に多い。従って全体の血圧を下げた方が防げる合併症の数は大きい(図3-2)。
 高リスクアプローチは方法論も明確で対象も明確にしやすいが、影響の量は限られている。一方、集団全体の予防効果からすれば、集団アプローチが必要である。しかし、一般に集団アプローチは社会全体への働きかけを必要とし、効果を定量化しにくいことが多い。
 高リスクアプローチと集団アプローチを適切に組み合わせて、対策を進めることが必要である。

高リスクアプローチと集団アプローチ

危険因子と合併症の発生数

3.ソーシャルマーケティングの活用
 健康日本21の推進にはマーケティング手法を社会政策に応用したソーシャルマーケティングが必要である。例えば、マスメディアによる情報提供、企業による商品・サービスの開発と提供、保健医療専門家によるサービスの提供及び働きかけなどである(図3-3)。個人の生活習慣の改善という観点から見ると、生活習慣が変わるためには一般に「知識の受容」「態度の変容」「行動の変容」という三段階を経るといわれている。その順に「マスメディア」「小集団による働きかけ」「一対一のサービス」が効果が高いとされている。

ソーシャルマーケティングの経路


第4章 目標の設定と評価の基準

 健康日本21を効果的に推進していくためには、計画の策定による情報の共有化と目標管理・評価が、その中心となる技法といえる。

第1節 目標設定と評価の枠組み
 健康日本21の基本的な目的である、国民の健康寿命の延長と生活の質の向上に向けて、健康課題の優先順位の決定からその管理までを総合的に実施する必要がある。つまり、
(1) どの健康課題が重要であるかを評価し、優先順位を決定する。
(2) 選択した健康課題に対して、その解決のための健康サービスを把握する。
(3) それぞれについて利益と危険の根拠を総合的に評価し、最大の健康改善が得られる健康サービスを選択する。
(4) そのサービスにより達成可能な、健康改善の目標を設定する。
(5) 選択した健康サービスを実行するとともに、どのようにサービスが実施されているか管理する。
(6) 最後に、目標がどの程度達成できたかを評価して、問題点を検討し、今後の管理方法の改善へとつなげていく。
というのものである。
 この枠組みは健康課題を解決するために設定するものであり、健康日本21に参加する様々な関係者が、それぞれの置かれている状況に応じて適切に利用することが求められる。

第2節 健康課題の選定
 人、物、時間、予算などの利用できる資源には限りがあるため、焦点となる健康課題について優先順位を決定することが必要となる。
 健康と生活の質を改善するためには、それらを阻害している疾患と障害に焦点を当てることが必要である。健康課題の優先順位を決定するためには、以下の3つの代表的なアプローチがある。 なお、健康と生活の質の改善を課題とする場合、健康サービスについては、健康改善に対する治療やリハビリなどが果たす本質的な役割を過小評価してはならず、保健・医療・福祉の利益と費用とを総合的に評価し、それぞれのバランスを十分に考慮することが必要である。

1.疾病負荷
  疾病負荷のアプローチは以前からよく利用されており、集団における健康障害(生活の質も含め)あるいは費用負担の大きさが、そのまま健康課題(健康サービス提供)の重要性を示すと考える。疾患負荷指標としては、例えば、疾患の死亡率、有病率、生活の質の低下、DALY(障害調整生存年)、 DFLY(無疾患生存年)、疾患の費用などが利用される。
2.健康改善の可能性
  また、健康改善の可能性も重要な要素である。健康改善が望めないならば、そもそも課題として取りあげることに意味がないからである。健康サービスの有効性の根拠を評価し、それに基づいたサービスの計画を立案し、健康改善の到達目標を明確にすることが必要となる。
3.経済的効率
  さらに、経済的な効率を考慮する必要がある。ここでは、健康サービスの健康改善に与える利益と、それに要する社会的資源とを総合的に評価する、つまり金銭に見合う利益(value for money)があるかどうかを検討する。
 その結果に基づいて、例えば、QALY(生活の質で調整した生存年)を1年延長するために要する費用により、健康サービスの提供あるいは健康課題の優先順位を決定する。ただし、特定の人が不利にならないように、公正(equity)の問題についても配慮することが求められる。

第3節 目標の設定
 具体的な目標値を設定するためには、まず健康改善の可能性を評価する。つぎに対象者・領域の種類と規模およびそれぞれ健康状態、危険因子の状態、サービスの提供状況等の現状値を把握する。最後に、これらを総合して目標を設定する。

1.健康改善の可能性の評価
 第一は、標的となる個別の健康問題について、健康改善の可能性を評価することである。まず、特定の健康問題を改善する上で利用可能な複数の保健サービスについて、1) 働きかけの内容、2) 根拠の質、3) 効果の予測、4) 費用対効果について検討し、望ましい保健サービスを把握する。それぞれについて、以下に簡単に説明する。

 (1) 働きかけの内容:実際に保健サービスを提供するためには、保健指導やスクリーニングなど、具体的にサービスを記述し、リストアップすることが求められる。
 (2) 根拠の質:サービスにより健康改善を実現するためには、科学的に有効性が確立しているかどうかを明確な基準で評価し、分類することが求められる。こうした評価は、すでに米国(表4-1)やカナダなどで実施されている。
 なお、根拠について、わが国の知見が利用できない場合には、国際的な知見を適宜利用する。また、明確な根拠の無い場合には、専門家の意見や地域での経験事例により勧告を行う場合が考えられる。
 (3) 効果の予測:保健サービスによる健康改善の程度を把握するためには、サービスによる死亡率、有病率の減少を予測する。この際にサービスの受容率についても考慮する必要がある。
 (4) 費用対効果:サービスの費用(人、物、時間)を推定し、さらに費用対効果を比較して、効率的なサービスを把握する。ただし、後者の情報については限られており、新たに作成するためには費用を要する点に注意が必要である。

   表4-1 一般人に対する予防対策(年齢25−64歳)
       米国予防学特別委員会(第2版,1996)  
 種類    項目         根拠の質    勧告 
 検診
  血圧                I      A
  身長・体重           I,II-2,II-3  B
  総コレステロール         I,II-2  B
  Pap 検査(子宮癌)       II-2,II-3    A
  便潜血検査(大腸癌)      I,II-1,II-2  B
  乳房撮影(乳癌)         I,II-2    C,A
  問題飲酒の評価          I,II-2 B
  風疹の血清検査・予防接種   II-2,II-3,III   B    
 カウンセリング
  禁煙               II-2      A
  アルコール・薬剤利用の回避  II-2,II-3     A   
 食事・運動
  脂肪・コレステロールの制限  I,II-2,II-3    A,B
  十分なカルシウム摂取    I,II-1,II-2,II-3 C
  規則的運動           I,II-2 C   
根拠の質 : I(無作為化比較試験),II-1(比較試験),II-2(分析疫学),
      II-3(時系列研究),III(専門家意見)
勧 告   : A(優れた根拠),B(相当な根拠),C(不十分な根拠,その他の理由から)

2.サービスの把握
 第二は、保健サービスの対象者・領域の種類と規模および現状値の把握である。
 まず、全国あるいは地域で取り組みを進める場合には、健康問題に関連する対象者と領域、種類と規模を明らかにする必要がある。つまりそれぞれの健康問題について、図4-1に示すような、年齢・領域別に、どの程度の対象人口が存在するかを把握する。
 次に、それぞれの対象者・領域について、現状値を評価することが必要となる。これは、上記の3) 効果の予測とも密接につながっているため、特に注意が必要である。

年代別・就業状況

3.目標値の設定
 第三は、最後にこれらを総合して目標値を設定する。年齢、領域別に把握した対象人口と保健サービスによる予測される効果を掛合わして総計すれば、地域全体の効果が予測できる。その結果と現状値を比較すれば、実現可能な目標値の設定が可能となる。
 ただし、最終的な目標値の設定については、こうした情報を基礎として、健康日本21の参加者あるいは利害関係者による討議と合意形成が必要である。目標値の設定には、必要な情報が必ずしも十分に利用できるわけではなく、様々な不確実な事柄に対処しなければならないからである。この際、健康課題の経年的な動向を十分に考慮することが必要である。

第4節 目標達成の評価
 健康日本21の目標が、どれほど達成されたか評価が求められるが、そのためには現状値と同様に、それぞれの個人、対象人口あるいは地域全体における達成度の調査が求められる。そのためには、目標値を設定する段階で、目標に関する情報の内容と収集方法をあらかじめ決めておくことが必要となる。情報収集の仕組みの無いものについては、仕組みを作ることから始めなければならない。
 また、各種の統計データを利用して、計画の進行状況を把握したり、各地の取り組みやデータを収集・紹介して、各主体の取り組みを支援できる健康情報センター的機能が必要である。これらについては第9章で詳述する。


第5章 現状分析

第1節 早世・障害の現状

1.早世
 生命表による65歳未満区間死亡確率(LSMR・65歳までに死ぬ可能性)は、1948年には50%前後であったものが、1997年には男性で15.7%、女性で7.8%と、著しく改善してきており、今後さらに低下すると予測されている(図5-1)。しかし、地域格差を見ると、男性で最低の長野県と最高の青森県の間に1.5倍の開きがある(図5-2)。この65歳未満の死亡確率のうち15歳までの少年期は全体の5%前後に過ぎず、大半は45歳から64歳の中年期に集中している。
 早世によって失われた寿命の長さを表す標準早死損失年(PYLLSR)で測ると、「がん」が最も大きく、次いで「不慮の事故」、「自殺」、「心疾患」、「脳血管疾患」となる(図5-3)。
人生の各段階、ライフステージ別に死因構造を比較すると、0〜4歳においては「先天性・周産期」の疾患が最も多く、5〜24歳では「不慮の事故」、25〜44歳では「不慮の事故」に「自殺」や「がん」が加わり、45〜64歳では「がん」が最も大きな原因を占める(図5-4)。

区間死亡率(0−64歳)の年次推移

都道府県別区間死亡確率(0−64歳)分布

標準早死損失年

ライフステージ別死因別死亡割合
 

2.障害
 全年齢を通じた障害手帳を有する障害者は約576万人と推計されており、幼少年期には「知的障害」が、青壮年期には「精神障害」が、そして中年期には「身体障害」の発生が多く認められる。中年期以降に起こる身体障害は、主に循環器疾患(脳卒中)や骨折・転倒による。これらの障害の予防には生活習慣病対策として若年期からの取り組みが必要である。また、咀嚼機能に影響を与える歯科疾患や視力低下等の視覚障害など、生活の質に最も影響を与える障害は高齢期に多い。寝たきり老人および痴呆老人が2000年には約140万人、2010年には200万人に達すると予測されている。近年、介護保険の導入に伴い市町村レベルでの障害のない平均余命(DFLE)の算出が可能となりつつある。

3.早世と障害を合わせた病気負担
 「早世と障害を合わせた」社会全体の病気による負担を、近年開発された「障害調整生存年(DALY)」の簡便法によって測ると、「がん」、「循環器疾患」、「精神疾患」がそれぞれ全体の約20%づつを占め、次いで「不慮の事故」が大きな割合を占めている(表5-1)。

       表5-1 障害調整生存年でみた主要疾患(1993)   
 がん        19.6%    肝硬変         1.9%
 うつ         9.8%    糖尿病         1.8%
 脳血管障害      8.6%    ぜんそく        1.7%
 不慮の事故      7.0%    先天異常・奇形     1.3%
 虚血性心疾患     4.9%    慢性関節リウマチ    1.2%
 骨関節炎       3.5%    歯科疾患        1.0%
 肺炎         3.3%    腎炎、腎不全      1.0%
 自殺         3.2%    慢性閉塞性肺疾患    0.8%
 精神分裂病      2.5%    アルツハイマー等痴呆  0.7%  
 

4.その他の視点
 一人ひとりから健康をみると、「日常生活を満足して送る」、「働くことができる」、「食事がおいしい」といった固有の捉え方で表現されることが多く、病気の有無だけに関心があるのではない。したがって、死亡や障害だけでなく、日常生活に関連して健康をとらえる視点が必要である。
 特に、こころの健康は、自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)、状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)、社会や他者と建設的でよい関係を築くことができること(社会的健康)などの側面を持ち、生活の質と密接な関連を持っていることから、身近な健康を考える上で重要な課題である。

 これらの大きな課題について、改善の可能性を考慮しつつ取り組む必要がある。個人の生活習慣やそれを取り巻く社会環境が年齢や集団によって異なっていることから、第6章で述べるように、年齢別、集団別に予防すべき病気と改善すべき原因を明確にして対応することが必要である。
 

第2節 目標設定の考え方
 65歳未満区間死亡の減少を目指すことは、人生の段階における一人ひとりの早世の可能性を減少させることを意味し、健康日本21の理念と合わせて有用と考えられる。65歳未満区間死亡確率は、男性で15.7%、女性で7.8%、合わせて11.8%であり、2000年には男性で15.4%、女性で7.3%、合わせて11.4%になると推測されている。がんによる65歳未満区間死亡率は、男女合わせて4.6%、全体の39%、脳卒中は1.6%、全体の9%、自殺は0.95%、全体の8%、そして虚血性心疾患は0.67%、全体の7%を占めていた(1997年)。
一方、国民の健康寿命を延長するためには高齢障害者の減少が必要である。障害については、65歳以上の寝たきり・痴呆が2010年には200万人に達すると予測されている。これらの原因には脳卒中や骨折などが考えられる。
 早世を減らすことと高齢者の障害を防ぐことを目的とした場合、それに関連する疾患をいかに減らすかが、課題となる(図5-5)。高齢者の障害を減らすとすれば、脳卒中や骨折の減少、さらには歯の喪失を防ぐことが課題となる。これらの疾病は、多くの場合生活習慣に深く関連しており、高血圧や糖尿病、たばこ、肥満、身体活動などが問題となる。
従って、大目標としては早世を減らし、高齢障害者を減らすことになる。中目標としては「がんを減らす」、「脳卒中を減らす」、「心臓病を減らす」、「自殺を減らす」、「歯の喪失を減らす」等を考え、これらの大目標、中目標を達成するための生活習慣の改善目標として小目標を考える。
 このような考え方をもとにして各論においてそれぞれの基準値と目標値を設定する。

早世、障害につながる危険因子


第6章 人生の各段階の課題

第1節 生涯を通した健康課題
 生まれてから死ぬまでの生涯を、「幼年期」(育つ)、「少年期」(学ぶ)、「青年期」(巣立つ)、「壮年期」(働く)、「中年期」(熟す)、「高年期」(稔る)の6段階に大別してみる(図6-1)。
 個人は各段階に応じた役割や課題を達成しながら、次の段階へと進み、「死」を区切りとするまでの、ひとつの人生の完成へと至る。むろん、これらの段階は各々が独立して存在するのではなく、前の段階が次の段階を生み出し支える。ある段階での生き方によっては、次の段階の内容は大きく変わる。
 壮中年期に多いがんや循環器病疾患は、幼年期や少年期における家庭での生活習慣の確立時期から、青年期での予防知識や技術の普及、壮年期での具体的な行動変容と、生涯を通じた改善が必要である。
 また、高年期のQOLの向上やそれを支える障害の減少は脳卒中の予防や生活全般にわたる老化の防止が必要と考えられることから、青年期からの運動習慣や適切な食生活の確保が必要と考えられる。
 さらに、歯の喪失を防止し、高年期になっても咀嚼能力を保持していくためには、幼年期の乳歯のむし歯予防から始まる生涯を通じた歯の健康管理が必要である。
 また、リプロダクティブヘルス、女性の健康は子供の健康とも直接関係しており、親の世代の生涯と子供の世代の生涯とを関連づけた対応が必要となっている。
 生涯を通した「健康づくり」は、その人に合わせた「生涯づくり」ともいえる。本人の価値、生き方、健康観に基づいた、それぞれの「人生シナリオ」をつくることが重要であり、保健医療専門家は専門的知識をもとに、双方向のコミュニケーションに基づき支援することが大切である。
 一方、人生の各段階(年代)とは、個人が年をとり、順番に通過する生活世界であるのに対し、世代とは同時期に生を受け、同時代の出来事を共有することにより形作られる、いわゆるコホートである(図6-2)。たとえば、昭和ヒトケタ世代と団塊の世代は、異なった特徴を持っていることから、それぞれの世代にあわせた対応が必要となる。

一人ひとりの健康実現

健康日本21に関連する各世代(コホート)
 

第2節 人生の6段階

1.幼年期(図6-3)
(1)特徴
 幼年期は生理的機能が次第に自立する時期である。少年期を準備する時期にあたり、人格や習慣を形成する時期として重要である。この幼年期の死亡は、近年著しく改善して世界で最も低い値を示している。死亡の多くは、周産期に発生した主要病態と先天異常によるものであり、その他不慮の事故が目立っている。障害は他の期に比べて知的障害が多く、原因も、先天性ならびに周産期に起因していることが多い。罹患は、外来・入院とも比較的多く、外来では呼吸器系の感染症、入院では喘息が第一位である。健康観の形成に対する影響力は、家庭すなわち両親からがもっとも大きい。
(2)課題
 回避できるリスクとしての不慮の事故対策が重要であり、対策も家庭を介するものに重点を置く必要がある。家庭内での教育は、健康に関連した習慣に重点を置く必要がある。周産前からの母子の対策も重要である。

図
 

2.少年期(図6-4)
(1)特徴
 この期は、社会参加への準備の意義があり、精神神経機能の発達の時期である。疾病は、死亡、障害共に、あまり増加はせず、比較的罹患も少ない時期と言えるが、歯科ではう蝕の急増期にあたっている。また、死亡は絶対数は少ないものの、その最大の原因は不慮の事故である。この時期の健康観は、清潔や衛生などに関連していることが多い。
(2)課題
 生活習慣が固まる時期として重要である。働きかけは、学校や家庭を通したものが重要である。早世や障害の観点から、事故予防が重要な課題である。

図
 

3.青年期(図6-5)
(1)特徴
 身体的には生殖機能は完成し、子供から大人へ移行する時期である。この時期の死亡も極めて少なく、障害や罹患も比較的少ない。死亡の原因としては、事故や自殺が挙げられる。疾病の発生状況を見ると外来では呼吸器感染症、入院では事故や骨折が目立っている。この時期の健康観は、病気の有無ではなくむしろ美容やファッションという視点で健康を捕らえている。
(2)課題
 学生生活や単身生活で、生活習慣に問題がある場合も多く、壮年期以降の危険な生活習慣の出発点でもあり、重要な時期であると考えられる。しかし、社会からの働きかけに対して反発しやすい時期でもあることから、改善のためには具体的方法論に工夫が必要である。支援は、学校や職場を通じたものに重点を置き、さらにメディアや企業を通じて働きかける必要がある。

図

4.壮年期(図6-6)
(1)特徴
 社会的には、働く、子供を育てるなど、極めて活動的な時期である。身体的にも機能は充実している。この時期から、死亡は少し増え始め、25歳から44歳までの区間死亡確率(dx25-44)は、男性で2.2%、女性で1.2%存在し、精神障害ならびに身体障害が増加し始める。入院も外来も増加の傾向にある。外来は呼吸器感染症が多く、また、歯周病等の歯科疾患が増加している。入院は外傷や骨折そしてがんが目立ち始めている。死亡の一位にがんが出現し、自殺、事故が続いている。
(2)課題
 働けるということが健康であると考える時期にあたっている。この時期は家庭を形成し、子供を育て、子供の身体や病気を通してもう一度健康の問題を考えるよいチャンスであるといえる。支援の重点は、職場や家庭に支援の重点を置き、マスコミや企業を通じて働きかける必要がある。

図
 

5.中年期(図6-7)
(1)特徴
 社会的には高年期への準備期であり、身体機能が徐々に低下していく時期である。65歳未満の死亡の中でこの期の占める割合が最も大きく、45歳から64歳までの区間死亡確率(dx45-64)は男性が13.1%、女性が6.3%にのぼっている。障害は、圧倒的に身体障害の増加が著しい。疾病罹患については、入院回数も新患外来回数も増加している。外来は、呼吸器感染症や外傷が上位であるが、腰痛や目の疾患も増加してくる。入院は、がんが最も多く、次いで骨折、心疾患が続いている。この時期の健康観は、病気と関係が深く、健康が気になり始める時期である。
(2)課題
 続く高年期への準備としてこの時期は重要で、趣味、健康問題あるいは親の介護を通したネットワークが形成される可能性が高い。高年期における障害や生活の質を視野に入れて、自らの健康を設計することが重要である。団塊の世代は現在この中に含まれており、これから定年に向けて老後の生活設計を行っていく必要がある。支援は、職場や家庭に加え、地域を通したものに重点を置き、マスメディア、企業がそれを支える必要がある。

図
 

6.高年期(図6-8)
(1)特徴
 社会的には、人生の完成期で余生を楽しみ、豊かな収穫を得る時期である。一方、身体的には老化が進み、健康問題が大きくなる。障害は、寝たきりや痴呆などの介護を必要とする重篤なものもあるが、視聴覚、歯の喪失による咀嚼の機能障害などの生活の質にかかわる障害も多い。疾病の罹患については外来や入院回数が極めて多い。外来は、高血圧、腰痛や白内障が多く、入院は脳卒中、心臓病、がんや白内障が多い。死や障害を避けるといったような消極的健康観をもつ者が多い。
(2)課題
 支援は、主として地域や保健医療福祉の専門家によるものが中心になる。この時期は、多少の病気や障害を抱えていても、生活の質を維持し、豊かに暮らすことができるよう自ら試みることが重要である。そのためには、社会との交流をはかり、何らかの社会的役割を持つことが大切である。人生に取り組む姿勢が身体的な健康にも影響を与えるといわれている。

図
 

第3節 重点対象となる時期
 前節で述べたように、健康実現のためには人生の各段階の健康課題や健康観等に応じた対応が必要であるが、その中でも特に健康について考える機会が多かったり、影響を受けやすい時期がある。こうした時期を捉えて働きかけることは、効果や効率という点で重要である。
 幼年期と少年期は家族の保護下で、基本的な健康観を受容、形成するとともに、生活習慣のもとが形づくられる時期であり、家庭や学校を通しての影響が大きい。青年期の前〜中期は思春期といわれ、成長とともに、家族の影響が薄れ、学校教育の影響が強くなり、さらに友人関係やメディアの影響が強く表れるようになる。この時期は反抗期でもあり、生活習慣が乱れやすく、問題のある生活を送っている青年も多い。これらを改善することは大きな課題であるが、友人などのネットワークを介した働きかけが有効と考えられる。
 壮年期の前〜中期は家庭を持ち、子育てをする時期にあたる。子供の健康を通してもう一度健康とは何かを学びなおすよい機会となり、また、ここで形成されるネットワークが次の段階の資源として重要となる。中年期以降は親の介護を通して、また自らの老後に向けて健康を考えなおす時期で、マスメディアや身近なネットワークが影響を及ぼしうる。
 健康日本21においては、長期的視点に立って、効果の持続性及び有効性という点から考えると、幼年期と少年期が最も重要であるといえる。また、その時期以降の影響力も考えると、思春期も極めて重要である。
 一方、健康日本21の実施時期が2000年から2010年であることを考えると、いわゆる昭和一ケタ世代及び団塊の世代も重要な対象となる(図6-2)。これらの世代の健康を支援する場が、職場から地域へと移行することに留意する必要がある。


第7章 環境整備とその実施主体の役割

 健康日本21を策定し、推進することの意義は、目標値の設定自体にあるのではない。その意義は、到達水準を示す各種の目標値を関係者の広範な議論により設定することを通じて、国民各層の意識変革と行動変容を促すことにある。 健康を実現することは、元来、個人の健康観に基づき、一人ひとりが主体的に取り組む課題であるが、こうした個人の力と併せて、社会全体として個人の行動変容を支援していく環境を整備することが不可欠である。
 このように個人の行動変容の有無と、その結果としての健康状態の良否についての責任を、本人のみに帰するのではなく、個人を取り巻く環境を改善することを通じて健康水準を向上させていくという考え方は、既に述べた通り、1986年のオタワ宣言によりWHOが提唱し、欧米諸国において広く展開されているヘルスプロモーションの概念と共通するものである。
 健康日本21の環境整備を推進するためには、その実施主体を明確に位置付けるとともに、各々の役割について明記することが必要である。それぞれの特性を生かして補い合い、連携して、国民を効果的に支援していかなければならない。

第1節 マスメディア
 マスメディアは不特定多数、若年から高齢まで、都会から地方まで、多数の人々を対象に大量の情報を、迅速かつ継続して送ることができる。一方、いったん流れされた情報が修正されにくい欠点を持つ。マスメディアはすべての世代、すべての年代への直接の影響を持ちうる。特に若年少年層に対しては放送メディアが強い影響力を持っている。
 マスメディアは、テレビ・ラジオ等の放送、新聞・雑誌・書籍等の印刷、そして急速に広がりつつあるインターネット、CDなどの新しいメディアに分類できる。取り扱う内容が保健医療に特化している健康雑誌のような媒体もあれば、テレビ・新聞等のように全体の内容の一部として健康を取り扱っているものもある。
 マスメディアが提供している資源は情報である。国民が健康情報を手に入れる機会はマスメディアによるところが多いので、マスメディアは健康情報を科学的根拠に基づいて伝達する社会的義務を負っている。また、一般にはマスメディアは企業からの広告収入に依存していることから、企業活動と密接に関連している側面もある。

第2節 企業
 企業は、多様性、創造性を有しており、情報が十分に提供され選択可能な市場という場を通して、個人の健康に対しても貢献ができる。多様な企業活動はあらゆる面で国民の生活に関連しており、健康に寄与する積極的な企業展開が期待される。
 日本には商品やサービスを提供する企業は670万存在する(1996年)。これらは規模による分類(大企業と中小企業など)、分野による分類(健康関連企業と非健康関連企業など)ができる。健康関連企業には環境衛生に関連する約64万の事業所、医薬品・医療機器に関連する約1万の企業、さらには検査受託企業などの医療に関連する約7000の企業、スポーツ施設など健康増進に関連する約2000の企業など種々の事業所が存在している。企業は商品やサービスを提供することによって、消費者の健康に影響を与えている。例えば、直接健康に関連する医薬品、医療機器等の商品や、休養、運動、ストレス軽減に関するサービス等が企業により提供されている。直接的には非健康関連企業と思われる企業であっても、一般の食品など、何らかの形で健康に関わっている企業も多い。
 現代人の生活は、個人のニーズの変化、世帯人数の減少や生活のテンポが早くなることなどによって、従来、家庭が提供してきたものを家庭外から入手できるようになってきている。例えば、食事も外食や完成品をスーパーマーケットで購入する割合が増えており、個人の選択的行動や食事を提供する企業の意識が、個人の栄養の改善に影響を及ぼすに至っている。
 このように、企業は健康増進関連商品やサービスの提供により、市場を通して消費者、国民に貢献することが可能である。さらに、商品やサービスを販売するためのプロモーション活動を通じて多くの人に健康的な生活習慣のイメージを伝えることができる。
 人々が主体的に健康的な生活習慣を選択できるようにするため、企業は適切な参考情報(外食・加工食品栄養成分表示やたばこの有害性表示など)を積極的に提供することが必要となる。
 以上の他に、企業はその中で働く従業員の健康に対する責任を有し、職場での健康管理において重要な役割を担っている。

第3節 非営利団体
 企業やマスメディアと異なり、利潤を追求しない団体、いわゆる非営利団体(NPO)が近年急増しつつある。非営利団体は身近で直接需要に近い手作りの情報や資源を提供できるが、広がりを持ちにくい欠点も存在する。また、参加する個人の熱意に支えられていることは、利点であると同時に、責任が個人の範囲内にとどまる欠点をも有している。しかし、各人の創意工夫、情熱により、比較的密な接触と継続性を持つので次のようなグループにおいては有効な影響力を持ちうる。
 思春期においては主として同世代の友人や趣味を媒介にしたネットワークが、また、若年期においては子育てや趣味など、目的を共有するネットワークが影響力を持ちうる。目的は必ずしも健康と関連していなくてもネットワークから出発し、その上に健康の課題を含んでいくことも可能と考えられる。中年期は地域や介護や趣味、あるいは職業を介するネットワークが考えられ、若年期と同様に直接健康に関連していないネットワークでもそれを介して互いに健康を考えることは重要である。特に中年期の場合、その可能性は高いと考えられる。
 非営利団体には種々の活動を行うものがある。ボランティア団体は全国社会福祉協議会の統計によると約8万あり、その中で奉仕活動にかかわる人員は500万人にのぼる。活動の内容も保健医療福祉、社会教育、まちづくり、環境保全、文化芸術振興、災害救助、国際協力など多岐に渡っているが、保健医療の占める割合は大きい。
 非営利団体によって提供されるものは、まず情報である。マスメディアによる情報と比較すると、手作りで、身近で、個人が実際に活用するに有用な情報が提供される。次いで、直接サービスの提供である。健康に関連したサービスや、場合によっては物品の提供がなされる。
 そのような非営利団体の活動に参加する人々は、活動を通じて多面的に他者とつながることができる。健康日本21を進めるにあたって他の健康関連グループが提供できない、対象者に身近できめの細かな情報とサービスを提供することが期待される。

第4節 職場、学校、地域、家庭
 職場、学校、地域、家庭は人が社会生活を営む上で常にどれかに身を置く場であり、小集団の密で継続的な相互接触を可能とする重要な場である。これらの場はそれぞれ共通の目的、比較的固定されたメンバーを持ち情報の提供や交換が継続的で効率的にできる。しかし、所属するメンバーの主体的な参加に欠けがちという欠点も持っている。
 学校は少年期の多くの時間を過ごす場であり、学校における健康教育が重要な役割を果たす。職場は青年期から中年期にかけて労働者として過ごす場であり、働く時期の健康確保の観点からも、また、退職後の健康確保の観点からも重要な役割を果たす。地域は人々の生活する場であり、生涯を通じて影響を及ぼすところであるが、特に幼年期と高年期及び自営業者、主婦等にとって、大きな影響を及ぼす。家庭も地域と同様、生涯を通じて健康に影響を及ぼすが、特に幼年期、少年期の年代においては、将来に続く生活習慣を身に付ける重要な場である。

第5節 保険者
 医療保険は地域と職域に分けられる。職域保険は企業単位又は複数の同種同業企業によって組織された約1800の健康保険組合が存在し、中小企業の多くは政管健保に加入している。その他、共済組合など各種の職域の保険者が存在している。一方、地域は市町村が中心で、その他特定の職種による団体で組織する組合が存在し、地域職域を合わせて5000に余る保険者が存在している。
 保険者は保険加入者に対して医療サービスを提供する医療機関等に報酬を支払ったり、被保険者及び被扶養者の健康の保持・増進のために必要な保健・福祉事業サービスを提供する機能を有している。保険者は保健医療専門家の行動に影響力を持っており、それを介して国民一人ひとりの健康の向上に寄与する可能性を有している。
 保険者は病気が発生するリスクに対応するとともに、病気発生以前の予防事業にも適切な医療給付を図る観点から力を注いできた。しかし、これまでは健診や人間ドックの実施が重視されてきたきらいがあり、今後は生活習慣病時代に即した新たな健康増進活動の推進が求められる。すなわち、保険の原理を踏まえ、病気のリスクを減らすためにも被保険者等の健康の保持、増進を目指した一次予防中心の保健事業の充実・強化や医療機関との関わり等保険者機能の強化が期待されている。

第6節 保健医療専門家
 医師、歯科医師、薬剤師、保健婦、看護婦、栄養士、歯科衛生士等の保健医療専門家が、医療及び公衆衛生の分野において、医療施設、薬局、行政機関などの多くの場で働いており、その数は約280万人に達している。
 保健医療専門家は健康の問題に対し技術・情報の提供ができる。特に住民の疾病の治療や予防を中心に担う病院や診療所、かかりつけ医師・歯科医師等の専門家については病気の治療のみならず、病気の発生予防にもより大きな役割を担うことが期待される。また、薬局・薬剤師については医薬品の適正な使用や健康に関する相談、情報提供などの役割が期待される。
 これらの多くの保健医療専門家は国家資格を有し、提供するサービスの質に対する大きな責任を負っている。特に生活習慣病に関する保健指導の知識・技術の向上を図ることが重要である。

第7節 行政機関
 行政機関は中央である国と、地方である都道府県と市区町村の3段階に分けられる。国においては、国民の健康に関連する省庁としては厚生省、労働省、文部省などがある。また、地方においては国と同様に衛生部局をはじめ、いくつかの部局が何らかの形で健康問題に関連している。
 行政機関は法的権限による規制や処罰等、健康に関連したグループに対する命令や指導を行うことができる。また、特定の分野での識者を集めた審議会等を通して科学的根拠に基づいた政策、指針、提言をまとめ、自らの政策に生かすことができると同時に、民間セクターを含めた国民全体に対して提言や指針を提供することも可能である。一方、これらの行為は権限を有するがゆえに一方通行になりやすく、強制的で、個々人の参加を促しにくいという欠点を持つ。情報やサービスの提供も行政の大きな役割である。さらに調査や研究の推進も重要である。
 行政の役割については次章に詳述する。


第8章 行政機関の役割/地方計画

第1節 国および地方自治体の役割
 国、都道府県、市町村は健康日本21において、それぞれ異なった役割を担っているが、いずれも計画の策定、実行及び評価を行う必要がある。また、計画の策定、実行にあたっては、市町村における母子保健事業や老人保健事業、医療保険者等における保健事業、学校や職域における保健活動等と十分な連携を確保しつつ、それぞれが効果的かつ一体的に提供できるよう配慮することが重要である。
 以下に国、都道府県、市町村の役割と、自治体の策定する地方計画の留意点について記述する。

1.国の役割
 国は健康日本21の全体的な戦略計画を組み立てる中枢組織である。まず、基本方針を明確にし、それを国民や健康関連グループに対して提示する必要がある。
 また、国は健康増進活動が円滑に進むよう、健康関連グループを調整し、指導するとともに、マスメディア等を通して国民に対する働きかけを行っていく必要がある。
 さらに、国は全国の健康指標を把握する情報システムを確立し、それを通した情報の収集、解析を行い、目標値の達成状況を追跡するとともに、国民や健康関連グループに対し、その結果の提供等を行う必要がある。
 そして、計画の妥当性について、中間評価、最終評価を行い、評価をもとに計画を更新していく必要がある。

2.都道府県の役割
 都道府県は、健康日本21の推進にむけて、具体的な計画を組み立てるとともに、健康実現に向けて市町村をはじめとする健康関連グループを支援する中核である。そのため、国が示す方向性を勘案し、各都道府県における健康の諸問題を調査、分析するとともに、健康の改善を担う各種の健康関連グループを確定し、健康日本21への参加を呼びかける。そして、地域での健康課題についての優先順位付けや目標設定をはじめとする計画づくりは、これらのグループと共同して行うべきである。
 なお、都道府県及び二次医療圏毎の計画策定を行うことが必要であり、二次医療圏毎の計画策定にあたっては、保健所が健康情報の把握・分析等において中心的な役割を果たすべきである。
 また、都道府県においても健康増進活動が円滑に進むよう、マスメディア等を通して都道府県民に対する働きかけを行っていく必要がある。
 都道府県は健康指標を把握する情報システムを確立し、目標値の達成状況を評価し、住民に対し、その結果を提供していく必要がある。

3.市町村の役割
 市町村は、従来から母子保健事業、老人保健事業のサービス提供者としての役割を担ってきたことを踏まえ、住民全体を対象とする健康日本21においては、市町村が主体的に計画を策定し、実施することが望ましい。その際には、都道府県が策定する二次医療圏毎の計画との整合性に配慮する必要がある。計画の策定にあたっては当該市町村を所管する保健所と連携を図る必要がある。
政令市及び特別区は他の市町村と異なり、独自に保健所を設置していることから、その保健所を中心として計画を立てる必要がある。また、情報の収集と解析において都道府県との連携を密にする必要がある。
 計画の実施にあたっては、市町村保健センターを活用するとともに、健康増進センター、医療機関や薬局等と協力し、健康に関する情報提供や個人が行う健康増進活動の支援を行っていく必要がある。

第2節 地方計画策定にあたっての留意点
1.自治体における重点政策化
  健康政策が自治体の最も重要な行政課題として位置づけられ、地方計画を活用した健康実現が図られるようにするため、都道府県や市町村は健康日本21地方計画を自治体の基本計画または総合計画と同等のレベルに位置づけることが望ましい。

2.地方計画に盛り込むべき理念
(1)住民第一主義
 地方計画において最も大切な理念の一つは、住民第一主義である。これは、住民が地域における健康づくりの中核に位置づけられることを意味する。この理念は、地域レベルだけでなく、学校や職場での健康づくりでも同様である。

(2)住民の能力向上
 次に大切な理念として、住民の能力向上である。そのためには従来の専門家主導の健康づくりではなく、住民の主体性を重視し、住民自身のセルフケア能力を高めるような支援をしていくことが必要である。

(3)環境整備の重視
 健康は個人の努力のみで実現できるものではなく、社会環境の整備、資源の開発が必要である。住民が自分の健康に気づき主体的に健康づくりを進めていくことができるような環境整備を重視する必要がある。

(4)住民参加
 地方計画の策定、実施、評価のすべての場面において、住民が参加し、決定のプロセスに関与することが重要である。
 一方、健康づくりは住民が行政に依存せずに、自分たちの役割を自覚し行動する過程を重視していくということが大切である。住民を含む関係者が、科学的な事実に基づいて効果的な事業を選択し、地域それぞれの健康特性や、健康に関連した資源の配置状況を明確にするなど、全体の経過を共有していくことが求められる。

3.計画策定における関係者の参画
計画策定は、それ自体が目的ではない。計画策定自体が目的になってしまうと、形式的なものになりやすい。実効的な計画を策定するためには、計画策定の段階から関係機関、関係者の参画が必要であり、策定のための検討を通じてそれぞれの役割を明確にしていくことが大切である。

4.目的指向の計画づくり
 計画策定にあたっては、計画が目指す目的について、関係者が十分に確認、合意し、それに基づいて目的を達成するための具体的な目標値を設定していく必要がある。その際には目的を適切に目標値として設定するとともに、その目標を達成するための健康診査の受診率や訪問活動の回数といった手段を明確にしていくことが重要である。

5.健康課題の設定
(1)現在の健康水準を明確にすること
 地域の健康課題は、現在の健康水準と将来達成すべき水準との格差として示すことができる。現状の健康水準が明確に分析されていなければ、課題を明確にすることも難しくなる。健康課題を明確にするためには、情報システムを利用し、地域の特性を把握ことが重要である。

(2)隣接地域との健康格差を明確にすること
 隣接地域との健康格差を明らかにすることは、健康課題の設定や目標値の設定に必要である。さらに原因分析や改善手段の選定などに有用である。また、単に現状値で比較するだけではなく、経年変化についても考慮することも必要である。

(3)人生の各段階に応じた健康課題を明確にすること
 以上の分析をさらに、世代別、年代別に把握し直し、人生の各段階に対応した目標や手法を選定していくことが求められる。
 たとえば、たばこについて考えると、成人だけではなく子供達の喫煙状況も明確にし、その防煙対策について、教育委員会や各学校との連携を強化し、実効性の高い対策を立案していくことが大切である。
(4)優先順位を明確にすること
 社会的な資源(人、物、時間、お金)は限られているので、優先順位をつける必要がある。優先順位を決定するにあたっては、問題の大きさ、改善の可能性、効率、住民のニーズなどを総合的に勘案する必要がある。

6.地域の健康資源の開発
 健康習慣を好ましいものにしていくためには、自主グループ活動や、社会ネットワーク活動、地域の集団給食施設、飲食店などの食産業、運動施設などの健康資源を活性化することが必要である。また、健康づくりの計画策定過程に多くの関係者の参画を得ることは健康資源の開発からも重要なことである。

第3節 地方計画実施にあたっての留意点

1.情報の公開と共有
 住民に対し環境整備、事業計画の進捗状況について、情報を公開していくことが望ましい。また、地方計画をより効果的に実施するには行政と住民、健康関連グループの間で対策や方法などの情報を交換し、共有することが重要である。

2.情報提供と自己選択の支援
 個人の価値観や生活様式は極めて多様化しており、健康に関する知識も格段に豊富になっている。このような新たな状況のなかで、健康学習の場で専門家に求められるのは、健康面でのメリットやデメリットについて、なお一層の最新情報を対象者に提供したり、本人が希望するならば行動変容のための情報を提供し、個々の住民自身の意思決定を支援することである。例えば、「自分の体重をどのようにするか」「禁煙するか節煙するか」といった意思決定においても、専門家が判断する「最も望ましい姿」を指導や強要するのではなく、対象者の置かれた状況や価値観の違いなどを踏まえつつ、対話を通じて、個人が自分で選択する上で必要な情報を適切に提供していくことが求められている。
 すべての人にメリットがある画一的な選択肢はあり得ないことから、個人がどのような選択をしても、その選択に対して単純に「正しい」とか「悪い」といった「価値づけ」を専門家がしないことも大切である。多様な選択肢が保障されてはじめて、自らの行った選択についての責任を、その個人が負うことができる。

3.民間の保健サービス機関の活用
  地方計画を実施するうえでは公的機関が中心となるが、都市部においては、多くのサービスが民間機関から提供されているので、実際のサービス提供を効果的、効率的にすするため、このような民間の保健サービス機関を活用することも可能である。この場合、質の高いサービスを確保するために、保健サービス機関に対する精度管理や関係者の研修を行う必要がある。

第4節 地方計画評価にあたっての留意点
 健康増進計画の最終的な効果判定は、住民の健康が本当に改善された、あるいは住民の健康度を向上していくためには、このシステムが有効であった、という事実によって評価できる。その際、提供者からみたものだけではなく、消費者、住民からみた評価も必要である。
 中間的な評価が実施された後には、評価結果に基づいたその後の改善策を策定していくことになる。このような、情報収集や計画・評価・改善の仕組みづくりをシステムとして総合的に確立していくことが大切である。
 計画を効果的に推進させていくためには、計画の策定、中間評価、計画の再策定を含めた、年次別の計画策定日程を明確にしておくことが求められる。地方計画では、国レベルの戦略的な計画が策定された後に、実務的で実践的な計画づくりを推進していく日程を明確にしていくことになる。キャンペーンや各種のイベント、住民組織の体験発表などのイベントも計画しておくことが大切である。


第9章 健康情報システムの確立

 健康日本21において、その計画の立案、実施及び評価する際に、情報は不可欠である。計画の立案においては問題点の把握、優先順位の決定及び目標の設定のすべての段階で現状の情報が必要であり、計画の実施、評価においても計画の進行に関する情報が極めて重要である。計画の進行に関する情報をその計画に基づいて事業を実施している健康関連グループが利用できるようにする必要がある。また、本計画の性格上、国民一人ひとりに対して、予防方法等に関する情報が提供されていることも必要である。
 科学的根拠に基づいた質の高い情報を効率的に入手するためには健康日本21のための戦略的な情報システムの確立が求められる。

第1節 情報入手及び提供に関するそれぞれの役割
1.国の役割
 従来から、国は、定期的かつ系統的に全国規模の統計資料をまとめ、地方自治体や国民に情報を提供してきた。国は国全体における健康日本21の進行状況を把握し、評価するための情報を常に入手する責任を負っている。そのためには対象として選定した病気やリスク要因の現状値を把握し、2005年に実施する中間評価、2010年に実施する事後評価のための情報を収集する必要がある。
 また、従来から収集されている官庁統計及び今後新設する調査について、病気の罹患や死亡、生活の質、健康観、健康へのリスク要因、生活習慣の現状等に分類し、健康日本21の推進に直接役立つ形に整理を行うとともに、地方自治体が他自治体と比較したり分析できるような形に整理し、提供する必要がある。
 不確実なあるいは健康にとって一部有害な情報がマスコミから報道されることもあるので、国は科学的根拠に基づいた正確な情報を、様々な経路で提供していく必要がある。
 また、国は、住民が、自分自身に必要な保健サービスを適切に選択できるように、各種保健サービス提供者の情報を収集・提供すべきである。

2.地方自治体の役割
 国が実施する調査については、標本調査であることが多いため、地方自治体が管轄する地域に関する情報は、これまで中央でとりまとめられるにとどまり、地方自治体にはあまり情報が蓄積されない傾向があった。今後、健康日本21を推進するにあたっては国が実施する統計について、地域分に関する情報を蓄積するとともに、その地域特性にあわせた独自の情報の収集、蓄積を自らの力で行うべきである。そして、地方自治体自らが決定し、実施していくために、インターネット等を活用した情報提供も含めた戦略的情報システムを構築していく必要がある。
 また、地方自治体においても、住民が、自分自身に必要な保健サービスを適切に選択できるように、各種保健サービス提供者の情報を収集・提供すべきである。

3.個人
 個人の健康に関する情報は基本的には各個人に属する。従ってこれらの情報は各個人が責任を持って管理し、それを十分に活用しながら健康の実現を目指すべきである。また自らの健康の実現のために資源を選択するには、資源に関する情報を個人が把握する必要があり、その世代や年代に適した情報媒体が用意されていなければならない。

4.健康関連グループ
 健康関連グループも各グループ毎に自ら情報を蓄積し検討する作業を行わねばならない。それによって初めて他のグループとの連携や個人への支援を効率的に行うことができる。
 
 

第2節 現在利用可能な情報と今後利用可能とすべき情報
1.死亡状況に関する情報
 死亡に関する情報は、主に人口動態統計によって入手できる。人口動態統計は、国全体について集計可能なだけでなく、都道府県別、二次医療圏別、保健所別、さらには市町村別までに集計可能である。
しかし、地方自治体においては、過去の人口動態統計の結果が、2次加工できるような形で蓄積されておらず、その活用は十分になされていない実状にある。
 今後、PYLLや特定年齢に達するまでに死亡する確率(例:65歳未満区間死亡確率)等を国が算定し、地方自治体に提供していくことが必要である。

2.疾病の発生状況に関する情報
 健康日本21の対象となる疾病の発生状況に関する情報は、現時点では、国レベルでは把握されておらず、いくつかの都道府県や地域において、がん登録や脳卒中登録が行われているに留まっている。
今後、健康日本21の対象疾患の発生状況(罹患率等)について、国レベルでの把握を可能とする仕組みを構築する必要がある。また、地方自治体レベルでも、同様の仕組みを確立する必要がある。

3.疾病・障害の保有状況に関する情報
 国レベルでの疾病の保有状況のうち、現に医療の管理下におかれている患者については、患者調査に基づき算定される「総患者数」により把握可能である。しかし、医療の管理下にない患者の状況については、患者調査では把握できないことから、国民栄養調査に併せて循環器疾患基礎調査、糖尿病調査が行われている。また、歯科領域については、歯科疾患実態調査が6年毎に継続的に実施されている。
 都道府県レベルでは、これらの患者数の把握は出来ておらず、今後、都道府県レベルでの把握を可能とする必要がある。また、障害の保有状況については国民生活基礎調査をもとに、患者調査、老人保健施設調査、社会福祉施設調査を組み合わせることによって国レベルでの把握は可能である。また、身体障害者手帳等の給付状況によってある程度の市町村レベルでの把握は可能である。

4.保健行動(生活習慣)に関する情報
 飲酒、喫煙、運動等保健行動に関する情報は、国民栄養調査により国レベルのものは把握できている。都道府県によっては、国民栄養調査の上乗せ調査や独自調査として実施しているところがあるが、必ずしもすべての都道府県で把握できていない。二次医療圏レベルや市町村レベルではほとんど把握されていない。今後、都道府県レベルだけでなく、二次医療圏レベル、市町村レベルでも保健行動に関する情報を把握できるようにすべきである。

5.疾病や予防方策の知識等に関する情報
 住民における、疾病やその予防方策等に関する知識の獲得状況や、住民が自分自身の状況(例:BMI、血圧、血糖値、コレステロール値等)を知っているか否かについては、国レベルでも自治体レベルでも十分に把握されていない。情報提供に責任を負う国や地方自治体、保険者等は、情報提供を効率的に行うためにも、これらの状況を把握すべきである。

6.保健サービスの利用に関する情報
 保健サービスを利用する側である、住民におけるサービスの利用状況に関する情報は、国民生活基礎調査や保健福祉動向調査等の一部で把握されるものもあるが、それらは継続的には調査されていない。また、健康・福祉関連サービス需要実態調査によって、健康増進等サービス業者の提供するサービスの利用状況は把握されているが、医療機関や行政が提供するサービスについては把握されていない。このように、住民から見た保健サービスに関する情報は国レベルでもほとんど把握されていない。
 今後、保健サービスの利用状況について、住民側から把握する調査を、国、都道府県、市町村のそれぞれのレベルで実施すべきである。

7.保健サービスの提供に関する情報
 地方自治体による保健サービスの提供状況については、従来、衛生行政業務報告(都道府県別集計まで可能)、保健所運営報告(保健所別集計が可能)、老人保健事業報告(市町村別集計が可能)により把握されてきた。このうち、保健所運営報告は地域保健法全面施行を機に地域保健事業報告に改められ、市町村が行う事業についても把握できるようになり、また、平成11年度からは老人保健事業報告もこの地域保健事業報告に統合されている。

8.民間において実施されている調査
 国が実施している調査以外にも「国民生活時間調査(NHK放送文化研究所)」や「全国たばこ喫煙率調査(日本たばこ産業)」など多くの調査が実施されており、これらを活用することも有用である。

第3節 情報の有効活用
 国は、地方自治体や保険者等が行う保健サービスの提供状況を把握するとともに、今後とも地方自治体や保険者等が行う各地・各レベルでの様々な健康計画・実践についての情報を収集する必要がある。これは、計画・実践を管理するという意義のみならず、収集した情報を他の必要な自治体や実施者に紹介することで情報資源の再分配を行うという、重要な意義をもつものである。

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