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糖尿病

1.はじめに
 わが国の糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加している。糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがある。さらに、糖尿病は脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症・進展を促進することも知られている。これらの合併症は患者のQOLを著しく低下させるのみでなく、医療経済的にも大きな負担を社会に強いており、今後も社会の高齢化にしたがって増大するものと考えられる。
 糖尿病の病型は、(1)1型糖尿病、(2)2型糖尿病、(3)その他、(4)妊娠糖尿病に大別できる。糖尿病の発症要因としては、遺伝的要因と環境要因が重要であるが、特に2型では生活習慣が環境因子として重要である。我が国の糖尿病の大部分をしめるものは2型糖尿病であり、本文中では特に断らない限りこの病型の糖尿病を指している。
この疾患の対策としては、発症の予防・早期発見・合併症の予防が重要である。
 日系移民を対象とした研究によると1)、日本人とは遺伝的背景は同一であるものの生活習慣の欧米化がさらに進行した米国の日系移民集団では、糖尿病有病率・罹患率はともにわが国の住民よりも2ー3倍高いことが知られている。社会的状況を考えれば、現在の日系米国人は将来の日本国民の健康状況であるとも推測され、早急な糖尿病対策が必要であることの根拠としても注目すべきである。
2.基本方針
(1)糖尿病発症の予防
 わが国の糖尿病患者は平成9年度に行われた厚生省「糖尿病実態調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人は690万人、可能性を否定できない人を含めると1,370万人と推計されている。1980年〜90年代の疫学研究によれば2型糖尿病の新たな発症は40才〜65才の一般住民1,000人・年あたり6-8人と報告されている。軽症の耐糖能異常であっても累積死亡率は健常者に比較して2倍以上である。
 統一した基準で行われた厚生省長期慢性疾患総合研究事業糖尿病疫学研究班の報告書に基づき、長期にわたる糖尿病有病率の推移を推計した2)
 この試算によると、現在の増加傾向がそのまま続くと仮定した場合、10年後の糖尿病有病者は男性約520万人、女性560万人、合計1,080万人となることが予想される3)
 このため、糖尿病の発症を予防するための取組が重要である。

(2)糖尿病検診による早期発見について
 現時点で我が国の糖尿病の二次予防(検診)は、老人保健事業による基本健康診査、職域での定期健診、病院・診療所での健診等、様々な機会をもって行われている。糖尿病対策における二次予防の目標としては、糖尿病検診の受診率の向上、検診後の保健指導の徹底が重要である。

(3)糖尿病合併症について
 糖尿病は、進行すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、また、脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症・進展を促進する。これらの合併症は患者のQOLを著しく低下させる重大な問題と考えられる。1998年に行われた日本透析医学会の調査によると、1998年の1年間で新規に透析導入となった患者のうち、35.7%は糖尿病性腎症が原因であり、1983年の2倍以上に増加している。また、糖尿病性網膜症により年に約3,000人が視覚障害となっている(1988厚生省「視覚障害の疾病調査研究」)。


3.現状と目標
(1)生活習慣改善による発症予防
 日本人を対象とした横断的/経年的疫学研究による糖尿病の発症危険因子は、1)加齢、2)家族歴、3)肥満、4)身体的活動の低下(運動不足)5)耐糖能異常(血糖値の上昇)であり、これ以外にも高血圧や高脂血症も独立した危険因子であるとされている4)。加齢と家族歴は改善(介入)が不可能であり、変更可能な危険因子としては、肥満、食事(摂取カロリーとその内容)、運動量の不足などがあげられる。
 以上の糖尿病の発症危険因子を考慮すると国民全体を対象とした健康の増進、これに伴う生活習慣病の予防対策としては「肥満の回避」、「身体的活動の増加」、「適正な食事」が合理的である。これらの対策は生活習慣病としての高血圧、高脂血症への介入手段としても有効であり、また、脳卒中・冠動脈疾患などの心血管疾患の予防対策となりうる。

ア 肥満の糖尿病発症への影響
 BMI(注1)区分別糖尿病有病率からの試算によると、肥満度が高い程、有病率は高くなる傾向がみられる。このデータより、我が国のBMI25kg/m2以上の割合を男性(20歳以上)15%以下、女性(20歳以上)を18%以下に減少することによって、糖尿病有病率を男性約6.2%、女性約5.7%減少できると見込まれる3)

イ 食事の糖尿病発症への影響
 国民栄養調査から、日本人の食習慣の推移をみると、1日の総エネルギー摂取量は減少傾向を示しているが、動物性脂肪摂取の増加傾向がみられる。また、エネルギーの配分では、糖質の比率の減少と脂質の比率の増加がみられている。現在までに報告された研究の結果から、このような近年における食生活の変化が、わが国の糖尿病の増加に一部関与している可能性があると指摘されている(注2)。さらに、過食や脂肪の過剰摂取是正は、糖尿病のみならず、虚血性心疾患、脳卒中等も含めた生活習慣病の予防に有用であることから、量・質ともにバランスのとれた食事をとるように心がけるべきである。

ウ 身体活動の糖尿病発症への影響
 (1)ペンシルバニア大学同窓生研究5)、(2)大慶研究6)、(3)大阪健康研究7)等、身体的活動度と糖尿病の発症についての主な大規模研究の結果から、日常生活における身体活動量の増加や休日の運動等によって糖尿病の発症が低下することが定量的に示されている(注3)。
 大学の卒業生(男性)5,590名の追跡(観察)を行ったペンシルバニア大学同窓生研究によると、主に余暇(Leisure time)の運動・身体的活動によるエネルギー消費を評価し、500 Kcal/週の運動毎に年齢訂正糖尿病発症は6%低下すると報告している。
 

◎糖尿病危険因子の回避
 ・成人の肥満者(BMI≧25.0)の減少
   目標値:20〜60歳代男性15%以下、40〜60歳代女性20%以下
   基準値:20〜60歳代男性24.3%、40〜60歳代女性25.2%
(平成9年国民栄養調査)
 ・日常生活における歩数の増加
   目標値:男性9,200 歩、女性8,300 歩
   注)1日平均歩数で1,000 歩、歩く時間で10分、歩行距離で600〜700m程度の増加に相当
   基準値:男性8,202歩、女性7,282歩
(平成9年国民栄養調査)
 ・我が国の国民が、過食や脂肪の過剰摂取を控え、量・質ともにバランスのとれた食事をとるように心がけることが重要

(2)二次予防について
 二次予防の目的は,糖尿病検診によって、糖尿病あるいはその疑いのあるものを見逃すことなく検出し、早期に治療を開始することである。糖尿病検診においては,家族歴、体重歴や産科歴等の既往歴、現在の体重、現在の血圧、血中脂質、合併症に関する所見等の情報を収集し、尿糖,尿蛋白、血糖値等を測定し、糖尿病の危険因子を持つ人の場合はHbA1cを併せて施行するべきである。
 HbA1cについては、血糖値を組み合わせることにより、スクリーニングの精度、効率を上げることができると予想される。HbA1cは老人保健法による検診など、一部ではすでに採用されており、その他の試みもあるが、その場合の数値の選択については今後検討の余地がある8)
 糖尿病検診の目標としては、40歳以上(ハイリスク者については若年者も)の糖尿病に関する健康診断の受診者を増加し、異常所見者に対しては事後指導を徹底するべきである。
現在、国民の地域・職域での検診や人間ドック等による糖尿病検診受診率を正確に把握したデータは存在しない。そのため、検診の種類(職域・人間ドック等)別に、糖尿病検診の実態を把握する必要がある。
 

◎糖尿病検診と事後指導
 ・定期健康診断等糖尿病に関する健康診断受診者の増加
   目標値:5割以上の増加参考値:4,573万人
(平成9年健康・福祉関連サービス需要実態調査)
 ・糖尿病検診における異常所見者の事後指導の徹底
   参考値:男性66.7%、女性74.6%
(平成9年糖尿病実態調査)

(3)糖尿病有病者の減少予測について
 前述のとおり、BMIと糖尿病有病者数の関係から推計すると,我が国のBMI 25kg/m2以上の割合を男性(20歳以上)15%以下、女性(20歳以上)を18%以下に減少することによって、糖尿病有病率を男性約6.2%、女性約5.7%減少できると見込まれる3)。また、国民の平均歩数を1,000歩上昇させることによって、国民1人あたり約200〜300 Kcal/週の運動をおこなうことになるので、糖尿病の発症を約3%減少することが期待できる5)
 したがって、上記の目標を達成することによって、2010年における有病者数を約7%減少することが可能と推計される。
 
 

◎糖尿病有病者の動向(前述の生活習慣改善による推計値)
 ・2010年の糖尿病有病者を約7%以上減少できると見込まれる
  (糖尿病有病者が約1,000万人以下になる見込み)
   基準値:1,080万人
(2010年における糖尿病有病者推計値)

(4)糖尿病合併症発症者の減少について
 糖尿病は、インスリンの作用不足により、糖、脂質、蛋白質を含むほとんど全ての代謝系に異常を来す。有効な治療手段が講じられるなどすれば代謝異常は改善する。しかし、糖尿病患者の代謝異常が軽度であれば、ほとんど症状を表さず、患者自身も糖尿病の存在を自覚せず、そのため長時間放置されることがある。糖尿病の代謝異常が長く続くと網膜、腎、神経を代表とする多くの臓器に異常を来す。これらの合併症に共通するものは細い血管の異常であり、進展すれば視力障害、ときには失明、腎不全、下肢の壊そなどの重大な結果をもたらす可能性がある。また、糖尿病では全身の動脈の動脈硬化が促進される。特に、冠動脈、脳動脈、下肢動脈などの病変は心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの原因となり、生命も脅かす。8)
 このように、糖尿病の合併症は重要な問題であるが、これらの合併症は治療の継続等の三次予防によって、その進展を抑制し、患者のQOL低下を防止することができる。糖尿病治療の基本は食事療法、運動療法、肥満の解消であり、さらに、必要に応じて、経口薬物やインスリン注射を行う。
 近年発表された長期にわたる臨床研究の結果によると、糖尿病患者に対して厳格な血糖管理を行いHbA1cが1%低下すると、合併症の危険度が約1/4減少することが示されている9)10).上記を含めた最近の知見を総合すると、糖尿病が発症しても、血糖値、HbA1c、血圧、血中脂質、肥満度等の指標を正常に近づけるよう努力することによって、合併症の発症・進展の危険を減らすことができる。
 しかしながら、平成9年厚生省が実施した糖尿病実態調査の結果では、「糖尿病が強く疑われる人」は690万人であるのに対し、医療機関にかかっている総患者の数は218万人(平成8年患者調査)で有病者の半数以下にとどまっている。従って、我が国の糖尿病有病者に対して、糖尿病の管理・治療が十分に行われているとはいえない。このため、合併症の状態の把握とともに、血糖管理のための有効な対策が必要であるとの意見が出された。
 

◎糖尿病合併症の減少
 ・糖尿病有病者に対する治療継続の指導を徹底
   参考値:糖尿病が強く疑われる人のうち治療を受けている人の割合45%
(平成9年糖尿病実態調査)
 ・糖尿病の合併症の発症の減少
   参考値:糖尿病性腎症によって、新規に透析導入となった患者数1年間に10,729人
(1998年日本透析医学会)
   参考値:糖尿病性網膜症による視覚障害1年間に約3,000人
(1988厚生省「視覚障害の疾病調査研究」)

4.今後の対策
(1)一次予防
ア 一般国民を対象とする集団
 糖尿病の一次予防は対象者数が多いことからも、ライフスタイルを望ましい方向に変更することによって行われるべきである。肥満者(過体重者を含む)へは「減量」、全国民へは「身体的活動の増加」を訴えるべきである。また、学童期から食生活に関する正しい習慣をつけるべきである。
 なお、20歳代女性については、2人の1人が「やせ」であることから、適正な体重の維持が重要である。
イ 高リスク集団
 糖尿病発症の可能性が大きい集団に対する予防のためのアプローチは、職域・コミュニティー等において行われる健康づくり活動を通して行うのが有効的である。

(2)二次予防
 二次予防対策として、以下のような対策が検討されるべきである。
・検診受診率の向上
・要生活指導者への対応(事後指導の強化等)
・三次予防機関(医療機関)へのスムーズな引継ぎと治療の継続
・高血圧、高脂血症などで通院中のハイリスク患者(ハイリスク者 注4)
へのアプローチ

(3)三次予防
 三次予防対策のためには、治療のガイドラインの作成が必要である(注5)。

注1
 BMI (kg/m)=体重(kg)/身長(m)

注2
1) Westernized food habits and concentrations of serum lipids in the Japanese (Atherosclerosis 100 : 249-255,1993)

2) 耐糖能異常発生に及ぼす栄養素等摂取量の影響―久山町研究―(平成7年厚生省「長期慢性疾患」総合研究事業研究報告書、1995)

注3
1) ペンシルバニア大学同窓生研究(Helmrich SPら,N Engl J Med 325:147,  1991)
 大学の卒業生(男性)5,590名の追跡(観察)研究
 身体的活動によるエネルギー消費の糖尿病発症への影響を観察
 おもに余暇(Leisure time)の運動を評価。
<結果>
 1.500 Kcal/週の運動ごとに年齢訂正糖尿病発症は6%低下する。
 2.この因子は、肥満、高血圧、家族歴とは独立している。
 3.運動は、他の発症リスクを持つ群の糖尿病予防に効果的。

2) 大慶研究(Da Qing Study, Pam XRら,Diabetes Care 20:537, 1997)
 大慶市(中国)のIGTを示した市民577名を対象に6年間の介入研究
 対照、食事、運動、食事&運動の4群
<結果>
1.baseline variable を補正すると以下の介入は糖尿病への進行を
 食事   31%
 運動   46%
 食事+運動  42% 減少した。

3) 大阪健康研究(Osaka Health Survey,岡田邦夫ら, 第42回糖尿病学会、1999年5月)
 糖尿病、IGT、高血圧のない男性6,013名の追跡(観察)研究
 休日の運動習慣の糖尿病発症への影響を観察
 休日のみの運動は、主に地域における青少年の運動指導など
 

<結果>
1. 週1回休日にのみ運動をする群は、しない群より相対危険度は
0.56(95%CI, 0.36-0.86)と低い値を示した。

注4
 ハイリスク者:肥満者、高血圧、高脂血症、家族歴等を有する人、血糖値の高い人

注5
 平成11年5月に、日本糖尿病学会による「糖尿病治療ガイド」(発行,文光堂)が作成された。

◎目標値のまとめ

1.糖尿病危険因子の回避
 ・成人の肥満者(BMI≧25.0)の減少
   目標値:20〜60歳代男性15%以下、40〜60歳代女性20%以下
   基準値:20〜60歳代男性24.3%、40〜60歳代女性25.2%
(平成9年国民栄養調査)
 ・日常生活における歩数の増加
   目標値:男性9,200 歩、女性8,300 歩
   注)1日あたり平均歩数で1,000 歩、歩く時間で10分、歩行距離で600〜700m程度の増加に相当
   基準値:男性8,202歩、女性7,282歩
(平成9年国民栄養調査)
 ・我が国の国民が、過食や脂肪の過剰摂取を控え、量・質ともにバランスのとれた食事をとるように心がけることが重要
2.糖尿病検診と事後指導・定期健康診断等糖尿病に関する健康診断受診者の増加
   目標値:5割以上の増加
   参考値:4,573万人
(平成9年健康・福祉関連サービス需要実態調査)
 ・糖尿病検診における異常所見者の事後指導の徹底
   参考値:男性66.7%、女性74.6%
(平成9年糖尿病実態調査)
3.糖尿病有病者の動向(前述の生活習慣改善による推計値)
 ・2010年の糖尿病有病者を約7%以上減少できると見込まれる
  (糖尿病有病者が約1,000万人以下になる見込み)
   基準値:1,080万人
(2010年における糖尿病有病者推計値)
4.糖尿病合併症の減少
 ・糖尿病有病者に対する治療継続の指導を徹底
   参考値:糖尿病が強く疑われる人のうち治療を受けている人の割合45%
(平成9年糖尿病実態調査)
 ・糖尿病の合併症の発症の減少
   参考値:糖尿病性腎症によって、新規に透析導入となった患者数1年間に10,729人
(1998年日本透析医学会)
   参考値:糖尿病性網膜症による視覚障害1年間に約3,000人
(1988年厚生省「視覚障害の疾病調査研究」)

参考文献
1) 原均、岡村緑:IGTの疫学―国際比較を含めてー。Diabetes Frontier3:129−135,1992
2) 岡山明他:糖尿病有病率に関する疫学データの収集、健康日本21糖尿病分科会、1999
3) 岡山明:糖尿病有病率のBMIによる寄与とBMI変化による推計、健康日本21糖尿病分科会、1999
4) 平成8年度厚生省長期慢性疾患総合研究事業報告書, 1996
5) Helmrich SPら:ペンシルバニア大学同窓生研究、N Engl J Med 325:147, 1991
6) Pam XRら:Da Qing Study、Diabetes Care 20:537, 1997
7) 大阪健康研究(Osaka Health Survey,岡田邦夫ら, 第42回糖尿病学会、1999年5月)
8) 日本糖尿病学会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告、1999
9) UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group: Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS33). LANCET; 352(9131) :837-53
10) Ohkubo Yら :Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin dependent diabetes mellitus -a randomized prospective 6-year study-. Diabetes Res Clin Pract28: 103, 1995

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