ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 雇用・労働 > 雇用 > 健康日本21 > 健康日本21(歯の健康 ) > 歯の健康

歯の健康

1.はじめに
 う蝕及び歯周病に代表される歯科疾患は、その発病、進行により欠損や障害が蓄積し、その結果として歯の喪失に繋がるため、食生活や社会生活等に支障をきたし、ひいては、全身の健康に影響を与えるものとされている。また、歯及び口腔の健康を保つことは、単に食物を咀嚼するという点からだけでなく、食事や会話を楽しむなど、豊かな人生を送るための基礎となるものである。
 これら口腔と全身の健康の関係を実証的データとしても明らかにしていくため、平成8年より厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係に関する研究」が実施されており、80歳高齢者を対象とした統計分析等から、歯の喪失が少なく、よく噛めている者は生活の質および活動能力が高く、運動・視聴覚機能に優れていることが明らかになっている。また、要介護者における調査においても、口腔衛生状態の改善や、咀嚼能力の改善を図ることが、誤嚥性肺炎の減少や、ADLの改善に有効であることが示されている1)
 従来の歯科保健対策は、小児期におけるう蝕予防対策を中心として実施されてきており、その結果、乳歯のう蝕は明らかに減少かつ軽症化の傾向を示し、永久歯の一人平均う歯(むし歯)数も、20歳頃まで減少傾向が認められるなど着実に成果が上がってきているといえる。
 しかし、13歳でう蝕有病者率が90%を越え、55?64歳で歯周病の有病者率が82.5%となるなど、依然、歯科疾患の有病状況はう蝕、歯周病ともに他の疾患に類を見ないほど高率を示している。また、咀嚼能力に直接的な影響を与える歯の喪失状況についても、60歳代で半分(14歯)の歯を失い、80歳代では約半数の人がすべての歯を喪失している2)など、国民の保健上から依然として大きな課題である。
 


2.基本方針
 現在、歯科保健の分野では、高齢者においても歯の喪失が10歯以下であれば食生活に大きな支障を生じないとの研究3)4)に基づき、生涯にわたり自分の歯を20歯以上保つことにより健全な咀嚼能力を維持し、健やかで楽しい生活をすごそうという8020(ハチマル・ニイマル)運動が提唱・推進されている。歯の健康については、8020の実現に向けた今後10年間の具体的な目標を示し、生涯を通じた歯及び口腔の健康増進の一層の推進を図る必要がある。
 目標としては、歯の喪失防止の目標値を示すとともに、歯の喪失原因の約9割がう蝕と歯周病で占められていることから5)6)、各ライフステージに応じた適切なう蝕・歯周病予防を推進することが重要であるため、幼児期と学齢期のう蝕予防および成人期の歯周病予防の各項目について目標を設定する。
 


3.現状と目標
(1)歯の喪失の防止(咀嚼機能の維持)
 前述したように8020(ハチマル・ニイマル)運動が推進されている一方、50歳以降では平均して2年に1本強の歯が喪失しており、60歳ですでに17.8歯と20歯を下回り、80歳以上の1人平均現在歯数は4.6歯となっている2)
こうした歯の喪失を防止し、咀嚼機能を維持していくという観点から、80歳において20歯以上の自分の歯を有する者の割合を増加していくことを目標として設定するとともに、歯の喪失が急増する50歳前後の人に対するより身近な目標として60歳において24歯以上の自分の歯を有する者の割合を設定することとし、それぞれ、10年後に対象年齢となる70歳と50歳の現状をもとに、80歳で20歯以上自分の歯を有する者を20%以上、60歳で24歯以上有する者を50%以上とすることを目標としている。
 歯の喪失のリスク因子としては、いくつかの疫学調査7)8)9)の結果により、喫煙、進行した歯周病の有無、口腔清掃の不良、根面う蝕の有無等が示されているが、対象数や調査項目、観察期間等の制約から十分明確にされているとはいえない。
 しかし、成人に対する介入研究の結果等により、定期的な歯石除去、歯面清掃および定期的な口腔診査による早期治療が歯の喪失防止に重要であることが示されており、これらをリスク低減目標として設定する。

ア 定期的な歯石除去、歯面清掃
 定期的に歯石除去や歯面清掃などの予防処置、指導を受けることが歯の喪失の防止に重要であることが示され10)11)12)、5年間の観察で定期的に歯石除去等を受けた群の1人平均喪失歯数は0.37歯であったのに対し、受けなかった群の喪失歯数は1.39歯であったとされている29)。これらの予防処置は、主に歯科診療所において実施されているが、歯石除去、歯面清掃に併せて、歯口清掃や喫煙、食生活等に関する保健指導を実施することがさらに効果的である。

イ 定期的な歯科検診と早期治療
 歯科疾患は自覚症状を伴わずに発生することが多く,疾患がある程度進行した時点で症状が生じる。そのため、定期的に歯科検診を受診して、早めに歯科治療を受ける習慣を維持することが歯の喪失を抑制することが明らかにされている10)11)13)
 定期的な診査の間隔については、定期的な歯石除去、歯面清掃も同様であるが、年齢、性別のほか歯の現在歯数、う蝕、歯周疾患の状況などの個人のリスクに応じて、個別に適切な間隔で実施されることが重要である。

ウ その他
 高齢者では、歯の喪失や歯周病の進行に伴い、口腔内状況が複雑となり、確実な歯口清掃を行うことが困難となってくるので、個人の口腔内状況にあった歯口清掃が実施できるよう、きめ細かな指導・支援を行っていく必要がある。また、今後、歯肉の退縮により露出した歯根面に生ずるう蝕(根面う蝕)のリスクが増加していくものと予想され、根面う蝕の実態等に関する調査・研究を踏まえながら対策を講じていく必要がある。
 
 

○歯の喪失防止の目標
 ・80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合及び60歳における24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加
   目標値:80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合 20%以上
       60歳における24歯以上の自分の歯を有する者の割合 50%以上
   基準値:20歯以上の自分の歯を有する者 75〜84歳 11.5%
       24歯以上の自分の歯を有する者 55〜64歳 44.1%
(平成5年歯科疾患実態調査)
○リスク低減目標
 ・定期的に歯石除去や歯面清掃を受けている者の割合の増加
   目標値:定期的に歯石除去や歯面清掃を受けている者の割合 30%以上
   参考値:過去1年間に歯石除去等を受けた者 55〜64歳 15.9%
(平成4年寝屋川市調査)
 ・定期的に歯科検診を受けている者の割合の増加
   目標値:定期的に歯科検診を受けている者の割合 30%以上
   基準値:過去1年間に歯科検診を受けた者 55〜64歳 16.4%
(平成5年保健福祉動向調査)

(2)幼児期のう蝕予防
 乳歯う蝕は3歳児で昭和60年に1人平均2.9歯、有病者率56.2%であったものが、平成10年には1人平均1.8歯、有病者率40.5%となるなど、近年確実に減少傾向を示している。しかし、都道府県別にみても有病者率で30ポイント以上の差があるなど、地域差、個人差が非常に大きいという課題がある。
 また、乳歯のう蝕と永久歯のう蝕には強い関連が認められるなど、乳幼児期は歯口清掃や食習慣などの基本的歯科保健習慣を身につける時期として非常に重要であり、生涯を通じた歯の健康づくりに対する波及効果も高いと言える。
 そのため、3歳児におけるう歯のない者の割合を増加させていくことを目標として、乳歯う蝕の予防を徹底していく必要がある。
 一般的に、う蝕の予防対策としては、その病因論から、う蝕を誘発する甘味飲食物の過剰摂取制限、歯口清掃による歯垢(デンタル・プラーク)の除去及び歯質の強化対策としてのフッ化物の応用等が実施されている。一方、3歳児のう蝕に関するリスク因子に関しては多くの調査14)15)16)が行われており、甘味摂取の回数、授乳方法・期間、保護者(母親)のう蝕経験、フッ化物歯面塗布回数などが示されている。

ア 間食としての甘味食品・飲料の摂取回数
 甘味食品・飲料の摂取頻度がう蝕の発病に強く関わっていることは、国内の多くの疫学調査14)15)16)のほか、長期間の介入研究17)においても立証されている。特に砂糖については、口腔内細菌により菌体表面で不溶性グルカンを合成する際の基質となるなど、他の糖質よりもう蝕の誘発に深く関与していることが明らかにされている18)
 このため、甘味食品・飲料の摂取回数が多くなるほど、う蝕の発病リスクは高くなるが、幼児の健全な発育の観点から、1日2回程度の間食習慣は広く普及しており、ここでは1日3回以上の摂取を高頻度群ととらえ、リスク低減の目標と位置づけることとし、間食内容を工夫し、時間を決めて飲食する習慣を普及していく必要がある。
 併せて、甘味料のうち、う蝕誘発性の低い甘味料に関する正確な知識を普及していくことも求められる。

イ フッ化物歯面塗布
 フッ化物歯面塗布を伴う定期歯科健康診査・保健指導による事業の効果について、その有効性が報告されている19)20)。これらの報告では、フッ化物歯面塗布によるう蝕抑制効果と健診および保健指導による効果が必ずしも分離できていない面があるが、フッ化物歯面塗布にはほとんどの場合保健指導も伴うと考えられるので、塗布経験者率を評価指標としても、報告されている成果が得られるものと考えられる。また、フッ化物歯面塗布の回数に応じて、う蝕抑制効果の上昇が認められるため、乳歯の萌出状況にあわせ、適宜塗布を受けることが推奨される。
 なお、1歳6か月児歯科健康診査では、う蝕罹患傾向の高いもの(O2型)をスクリーニングすることとなっており、O2型と判定された者等のハイリスク者を特に重点的に指導することが効果的である。

ウ その他(授乳習慣、仕上げ磨き等)
 リスク因子として示されている1歳6か月を過ぎての就寝時の授乳など、う蝕の原因となる授乳習慣を改善することや、毎日保護者が仕上げ磨きをする習慣の徹底なども重要であり、併せて保護者が自らの早期治療や定期的な歯科健康診査の受診を心がけるなど保護者自身の歯科保健行動の向上も必要とされている。
 
 

○幼児期のう蝕予防の目標
 ・3歳児におけるう歯のない者の割合の増加
   目標値:3歳児におけるう歯のない者の割合 80%以上
   基準値:う歯のない者の割合 3歳児 59.5%
(平成10年度3歳児歯科健康診査結果)
○リスク低減目標
 ・3歳までにフッ化物歯面塗布を受けたことのある者の割合の増加
   目標値:3歳までにフッ化物歯面塗布を受けたことのある者の割合 50%以上
   基準値:フッ化物塗布経験のある者 3歳児 39.6%
(平成5年歯科疾患実態調査)
 ・間食として甘味食品・飲料を1日3回以上飲食する習慣を持つ者の割合の減少
   参考値:1日3回以上の間食をする者 1歳6か月児 29.9%
(久保田らによる調査、平成3年)

(3)学齢期のう蝕予防等
 永久歯は5歳前後から生え始めるが、第2大臼歯がほぼ生えそろう12歳時点ですでに、1人平均う歯数2.9歯となっている。
 このように永久歯が生えてから比較的短期間に急速にう蝕が増加していることから、12歳児におけるう歯数を減少させていくことを目標として、永久歯う蝕を予防していく必要がある。
 なお、12歳児におけるう歯数の減少の目標として、一人平均う歯本数を1歯以下に減少していくこととしているが、これは目標としての明確さや、分かり易さ等を配慮したものであり、歯科疾患実態調査および学校保健統計調査の推移や、地域・集団における歯科保健対策による改善実績等のデータから、全国の指標として妥当なものとして設定されたより詳細な目標数値は1.4歯以下である。
 学齢期のう蝕予防についても、基本的には幼児期と同様であり、う蝕を誘発する甘味飲食物の過剰摂取制限、歯口清掃による歯垢(デンタル・プラーク)の除去及び歯質の強化対策としてのフッ化物の応用等が基本となり、様々な介入研究等によりう蝕抑制効果が示されている。

ア フッ化物配合歯磨剤の使用
 フッ化物配合歯磨剤のう蝕抑制効果については多数の研究が行われ、非配合歯磨剤との比較において20〜40%のう蝕抑制率であるとされている20)。フッ化物配合歯磨剤は個人の選択により、個人又は家庭レベルで手軽に応用が可能な方法であり、そのシェアは近年増加しており、1998年では69%に達している。しかし、欧米ではほとんどの国でシェアが90%を越えており、う蝕急増期の学齢期を中心にフッ化物配合歯磨剤による歯磨きの励行に努め、その使用者の割合を増加することを目標とする。同時に、フッ化物の歯科的応用に対する関係者の理解を深めることも重要である。

イ 口腔状況にあった歯口清掃法の習得
 歯口清掃により歯垢(デンタル・プラーク)を取り除くことは、う蝕発生の原因除去として基本となるが、この時期は永久歯への交換に伴い、口腔内状況が変化し、確実な歯口清掃が困難になっている。したがって、個々の状況に応じた歯口清掃指導を受けることにより、適切な歯口清掃法を身に付ける必要がある。また、この時期に、こうした指導を受けることは、生涯にわたる基本的歯科保健習慣・行動の形成においても重要な役割を果たすものである。

ウ その他
 この時期のう蝕予防においても、う蝕のリスク状況に応じて的確な予防管理を受けることは重要である。そのため、かかりつけ歯科医、学校歯科医等による定期的管理により、適切な予防処置(フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口、予防填塞(フィッシャーシーラント) 等)を受けることが必要である。
 また、この時期に学校における健康教育等の多様な機会を通じて甘味食品・飲料の摂取とう蝕の関係など、う蝕の発生と予防等に関する理解を促し、生涯にわたる歯と口腔の健康のための適切な生活習慣の定着に結びつける必要がある。
 特に、12〜14歳ですでに40%を超える者が歯肉に炎症を生じていることから2)、歯周病予防に関する正しい歯科保健知識・行動を身につけるようにすることは重要である。
 

○学齢期のう蝕予防の目標
 ・12歳児における1人平均う歯数(DMF歯数)の減少
   目標値:12歳児における1人平均う歯数(DMF歯数) 1歯以下
   基準値:1人平均う歯数 12歳児  2.9歯
(平成11年学校保健統計調査)
○リスク低減目標
 ・学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合の増加
   目標値:学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合 90%以上
   参考値:児童のフッ化物配合歯磨剤使用率 45.6%
(荒川らによる調査、平成3年)
 ・学齢期において過去1年間に個別的歯口清掃指導を受けたことのある者の割合の増加
   目標値:過去1年間に個別的歯口清掃指導を受けたことのある者の割合   30%以上
   参考値:過去1年間に歯磨き指導を受けたことのある者 15〜24歳 12.8%
(平成5年保健福祉動向調査)

(4)成人期の歯周病予防
 歯周病は40歳以降に歯を失っていく大きな原因となっており、平成5年の歯科疾患実態調査によると35?44歳の27%が歯周炎に罹患している。同年齢で歯肉炎も含めると、81.2%に症状が認められており、これ以降、加齢的に歯周病が増悪し、それとともに喪失歯数も増加している2)
 このため、進行した歯周炎に罹患している者(4mm以上の歯周ポケットを有する者)の割合を減少することを目標に、この時期に歯周病の予防、進行防止を徹底することが歯の喪失防止に重要である。
 歯周病のリスク因子としては、疫学研究21)22)23)24)により喫煙、歯間部清掃用器具使用の有無、過度の飲酒、定期歯科検診・受療の有無、食習慣、歯磨き回数などが示されている。

ア 歯間部清掃用器具の使用
 通常使用する歯ブラシでは歯と歯の間の部分の歯垢(デンタル・プラーク)を完全に落とすことができないため、この部分から歯肉の炎症が生じるケースが多い。このため、歯間部清掃用器具(デンタル・フロス、歯間ブラシ 等)を使用する必要がある。

イ 喫煙
 近年、喫煙が歯周病および歯の喪失のリスクファクターとして重要な位置を占めているとの報告がなされおり、歯科保健の分野からも喫煙の健康影響についての十分な知識の普及を進める必要がある。また、歯周病に罹患している者、特に進行した歯周病に罹患している者については、必要に応じて禁煙支援、指導を行っていくことが重要である。

ウ その他
 歯周病の発生・進行を防止するためには、定期的な検診および歯石除去、歯面清掃が効果的であることが多くの介入研究等により示されており、かかりつけ歯科医等のもとで、こうした歯周病管理を受けている者を増加していく必要がある。
 また、歯周病を初期のうちに自己管理して、手遅れになるのを防ぐためにも、例えば、週1回以上鏡で自分の歯ぐきの状態を観察する等の習慣を定着していくことは効果があるものと思われる。実際に、生徒を対象とした研究ではあるが、歯肉の状態を自己観察して記録するよう介入を行うことにより、歯肉の状況の改善に効果があったとの報告がなされている25)
 

○成人期の歯周病予防の目標
 ・40、50歳における進行した歯周炎に罹患している者(4mm以上の歯周ポケットを有する者)の割合の減少
   目標値:40、50歳における進行した歯周炎に罹患している者(4mm以上の歯周ポケットを有する者)の割合 3割以上の減少
   参考値:進行した歯周炎を有する者(CPIコード3以上)  40歳 32.0% 50歳 46.9%
(富士宮市モデル事業 平成9〜10年)
○リスク低減目標
 ・40、50歳における歯間部清掃用器具を使用している者の割合の増加
   目標値:40、50歳における歯間部清掃用器具を使用している者の割合それぞれ50%以上
   基準値:歯間部清掃用器具を使用している者の割合 35〜44歳 19.3%45〜54歳 17.8%
(平成5年保健福祉動向調査)
 ・喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及
   基準値:喫煙で以下の疾患にかかりやすくなると思う人の割合
       肺がん 84.5%、 ぜんそく 59.9%、 気管支炎 65.5%、
       心臓病 40.5%、 脳卒中 35.1%、 胃潰瘍 34.1%、
       妊娠への影響 79.6%、 歯周病 27.3%
(平成10年度喫煙と健康問題に関する実態調査)
 ・禁煙、節煙を希望する者に対する禁煙支援プログラムを全ての市町村で受けられるようにする。


4.対策
(1)自己管理(セルフケア)能力の向上
 う蝕および歯周病の発症は、口腔内の微生物によって形成される歯垢(デンタル・プラーク)に起因しており、いずれも適切な歯科保健行動・習慣の維持により予防することができる生活習慣病としての性格を有している。
それゆえ、これらの疾患を予防するために重要な役割を果たすのは的確な口腔清掃や甘味飲食物の過剰な摂取の制限等の食生活への配慮などの自己管理(セルフケア)、家庭内管理(ホームケア)である。
 毎日歯を磨く者が94.9%となるなど26)、口腔清掃は習慣としてはある程度定着してきているが、個人個人の口腔内状況やその他のリスクに応じた自己管理が十分なされているとは言えず、そのために必要な歯科保健知識・技術も十分に普及しているとはいえない。
 これに対応するため、保健所・市町村保健センターや学校、職場などで、適宜個人の必要性に応じた歯科保健知識・技術を修得できるようにするなど、自己管理能力の向上を支援していく体制を築く必要がある。

(2)専門家等による支援と定期管理
う蝕および歯周病の原因となる歯垢の除去は、歯の形態や歯列の状況などから、自己管理のみで完全に行うことは困難である。そのため、これらの疾患を予防し、実際に歯の喪失防止に結びつけるためには、自己管理に加えて、専門家による歯石除去や歯面清掃、予防処置を併せて行うことが重要である。
実際に、歯科医師、歯科衛生士による適切な予防処置(フッ化物応用、予防填塞(フィッシャーシーラント)、歯石除去や歯面清掃 等のプロフェッショナルケア)を組み合わせて行うことがう蝕および歯周病を予防し、歯の喪失を減少するのに有効であることが、多くの研究から明らかにされている27)28)29)30)
そのため、検診による早期発見・早期治療に加え、疾患の発症を予防する一次予防がより重要であることを広く認識して、個人の口腔健康管理を専門的立場から実施あるいは支援する保健所・市町村保健センターやかかりつけ歯科医等の歯科保健医療機関(専門家)を活用し、定期的に歯科健康診査・保健指導や予防処置を受ける習慣を確立することが必要がある。また、その為の環境整備として歯科保健相談や予防処置等の予防活動を行う歯科医療機関等を増加させていく必要がある。

(3)保健所等による情報管理と普及啓発の推進
歯科疾患は、地域格差が大きいため、ライフステージ毎のう蝕及び歯周病の有病状況や現在歯数等についての地域別の情報を収集、評価管理していく必要がある。そのためには保健所が市町村等との連携のもとに、地域の歯科保健情報の収集、管理に中核的な役割を果たしていくことが求められる。また、保健所、市町村保健センター等においては、こうした地域歯科保健情報等を有効に活用して、住民に対する情報提供に努めるとともに、地域、学校、職場等が連携した効果的な歯科保健対策の展開を図るべきである。

◎目標値のまとめ

1.歯の喪失防止の目標
 ・80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合及び60歳における24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加
   目標値:80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合 20%以上
       60歳における24歯以上の自分の歯を有する者の割合 50%以上
   基準値:20歯以上の自分の歯を有する者 75〜84歳 11.5%
       24歯以上の自分の歯を有する者 55〜64歳 44.1%
(平成5年歯科疾患実態調査)
 ・定期的に歯石除去や歯面清掃を受けている者の割合の増加
   目標値:定期的に歯石除去や歯面清掃を受けている者の割合 30%以上
   参考値:過去1年間に歯石除去等を受けた者 55〜64歳 15.9%
(平成4年寝屋川市調査)
 ・定期的に歯科検診を受けている者の割合の増加
   目標値:定期的に歯科検診を受けている者の割合 30%以上
   基準値:過去1年間に歯科検診を受けた者 55〜64歳 16.4%
(平成5年保健福祉動向調査)
2.幼児期のう蝕予防の目標
 ・3歳児におけるう歯のない者の割合の増加
   目標値:3歳児におけるう歯のない者の割合 80%以上
   基準値:う歯のない者の割合 3歳児 59.5%
(平成10年度3歳児歯科健康診査結果)
 ・3歳までにフッ化物歯面塗布を受けたことのある者の割合の増加
   目標値:3歳までにフッ化物歯面塗布を受けたことのある者の割合 50%以上
   基準値:フッ化物塗布経験のある者 3歳児 39.6%
(平成5年歯科疾患実態調査)
 ・間食として甘味食品・飲料を1日3回以上飲食する習慣を持つ者の割合の減少
   参考値:1日3回以上の間食をする者 1歳6か月児 29.9%
(久保田らによる調査、平成3年)
3.学齢期のう蝕予防等の目標
 ・12歳児における1人平均う歯数(DMF歯数)の減少
   目標値:12歳児における1人平均う歯数(DMF歯数) 1歯以下
   基準値:1人平均う歯数 12歳児  2.9歯
(平成11年学校保健統計調査)
 ・学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合の増加
   目標値:学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合 90%以上
   参考値:児童のフッ化物配合歯磨剤使用率 45.6%
(荒川らによる調査、平成3年)
 ・学齢期において過去1年間に個別的歯口清掃指導を受けたことのある者の割合の増加
   目標値:過去1年間に個別的歯口清掃指導を受けたことのある者の割合 30%以上
   参考値:過去1年間に歯磨き指導を受けたことのある者 15?24歳 12.8%(平成5年保健福祉動向調査)
4.成人期の歯周病予防の目標
 ・40、50歳における進行した歯周炎に罹患している者(4mm以上の歯周ポケットを有する者)の割合の減少    目標値:40、50歳における進行した歯周炎に罹患している者(4mm以上の歯周ポケットを有する者)の割合 3割以上の減少
   参考値:進行した歯周炎を有する者(CPIコード3以上)  40歳 32.0% 50歳 46.9%
(富士宮市モデル事業 平成9?10年)
 ・40、50歳における歯間部清掃用器具を使用している者の割合の増加
   目標値:40、50歳における歯間部清掃用器具を使用している者の割合それぞれ50%以上
   基準値:歯間部清掃用器具を使用している者の割合 35〜44歳 19.3%  45〜54歳 17.8%
(平成5年保健福祉動向調査)
 ・喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及
   基準値:喫煙で以下の疾患にかかりやすくなると思う人の割合
       肺がん 84.5%、 ぜんそく 59.9%、 気管支炎 65.5%、
       心臓病 40.5%、 脳卒中 35.1%、 胃潰瘍 34.1%、
       妊娠への影響 79.6%、 歯周病 27.3%
(平成10年度喫煙と健康問題に関する実態調査)
 ・禁煙、節煙を希望する者に対する禁煙支援プログラムを全ての市町村で受けられるようにする。

参考文献
1) 花田信弘 他,高齢者の口腔および全身健康状態に関する疫学研究,口腔衛生会誌,49,1999.
2) 厚生省健康政策局歯科保健課,平成5年歯科疾患実態調査,1993.
3) 後藤真人 他,成人歯科保健の指標としての「噛めかた」の検討(第2報),口腔衛生会誌,37, 1987.
4) 新庄文明 他,歯科保健センターを基盤とした南光町における成人歯科保健事業,日本歯科評論,530, 1986.
5) Morita,M et al.,Reasons for extraction of permanent teeth in Japan,Community Dent.Oral Epidemiol,22,1994.
6) 鈴木恵三 他,北海道における抜歯の理由について,口腔衛生会誌,37,1987.
7) Slade.G.D. et al.,Two-year incidence of tooth loss among South Australians aged 60+ years,Community Dent. Oral Epidemiol.,25,1997.
8) Eklund,S.A. et al.,Risk factors for tooth loss in the United States : Longitudinal analysis of National Data,J. Public Health Dent.,54,1994.
9) Locket et al.,Incidence of risk factors for tooth loss in a population of older Canadians,J.Dent.Res,75,1996.
10) 新庄文明 他,高齢者にたいする歯科臨床における歯周疾患予防指導の効果についての研究?喪失リスクに与える影響?,老年歯科医学,3,1989.
11) 川村泰雄,8020への挑戦,8020臨床現場からのアプローチ,日本歯科評論社,1994.
12) 宮地建夫,診療室における臨床例の調査から,8020臨床現場からのアプローチ, 日本歯科評論社,1994.
13) 松本勝 他,成人・老人歯科健診受診者の口腔内状況と保健意識について,口腔衛生会誌,40,1990.
14) 日野出大輔 他,3歳児の乳歯う蝕罹患に関する要因の分析,口腔衛生会誌,38,1988.
15) 佐久間汐子,乳歯う蝕罹患状況に関する疫学的研究 ?.3歳児う蝕の多寡に関わる要因分析,口腔衛生会誌,40,1990.
16) 河端邦夫 他,保健所における母子歯科保健 ?.1歳6か月時の生活環境と3歳児のう蝕罹患状況との関連について,口腔衛生会誌,42,1992.
17) Gustafsson,B.E. et al.,The Vipeholm dental caries study:The effect of different levels of carbohydrate intake on caries activity in 436 individuals observed for five years.,Acta Odontol.Scand. 11,1954.
18) Loesche W.J.,Role of Streptococcus mutans in human dental decay.,Microbiol. Rev.,50,1986.
19) 清田義和 他,フッ化物ゲル歯面塗布法(歯ブラシ・ゲル法)の乳歯う蝕予防効果,口腔衛生会誌,47,1997.
20) Stooky,G.K.,Review of fluorosis risk of self-applied topical fluorides: dentifrices, mouthrinses and gels.,Community Dent.Oral Epidemiol,22,1994.
21) Shizukuishi,S. et al.,Lifestyle and periodontal health status of Japan factory workers,Ann.Periodontol.,3,1996.
22) Sakki,T.K. et al.,Association lifestyle with periodontal health,Community Dent. Oral Epidemiol.,23,1995.
23)Dolan, T.A. ,Behavioral risk indicators of attachment loss in adult Floridians,J. Clin. Periodontol.,24,1997.
24) Brown,I.F. et al.,Incidence of attachment loss in communitydwelling older adults,J.Periodontol., 65,1994.
25) Kallio, P. et al.,Self-assessed bleeding and plaque as methods for improving gingival health in adolescents,Int. Dent. J.,47,1997.
26) 厚生省大臣官房統計情報部,平成5年保健福祉動向調査,1993.
27) Axelssen, P. et al., Effect of oral hygene procedures on caries and periodontal disease in adults.Result after 6 years , J. Clin. Periodontol. ,8,1981.
28 ) 福田順一他,乳幼児のう蝕予防における定期歯科健康管理の有用性,神奈川歯学,28,1994.
29) 瀧口徹 他,茨城県牛久市の疫学調査に基づいた歯科健康診査の評価,成人歯科保健事業長期実施市町村調査研究報告集,1994.
30) Hujoel,P.P. ,The effects of simple interventions on tooth mortality:findings in one trial and implications for future studies,J.Dent.Res ,76,1997.

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 雇用・労働 > 雇用 > 健康日本21 > 健康日本21(歯の健康 ) > 歯の健康

ページの先頭へ戻る