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休養・こころの健康

1 はじめに
 こころの健康とは、世界保健機関(WHO)の健康の定義を待つまでもなく、いきいきと自分らしく生きるための重要な条件である。具体的には、自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)、状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)、他人や社会と建設的でよい関係を築けること(社会的健康)を意味している。人生の目的や意義を見出し、主体的に人生を選択すること(人間的健康)も大切な要素であり、こころの健康は「生活の質」に大きく影響するものである。
 こころの健康には、個人の資質や能力の他に、身体状況、社会経済状況、住居や職場の環境、対人関係など、多くの要因が影響し、なかでも、身体の状態とこころは相互に強く関係している。
 心身症という名称があるように、以前から、ある種の疾病の発症や進展に心理的な要因が影響することことが知られており、最近ではこの関係が実証されてきている。例えば、ストレスが多いと風邪などの感染症にかかりやすくなること、心臓病などの病気にかかりやすい性格や行動があること、などが有名である。
 こころの健康を保つには多くの要素があり、適度な運動や、バランスのとれた栄養・食生活は身体だけでなくこころの健康においても重要な基礎となるものである。これらに、心身の疲労の回復と充実した人生を目指す「休養」が加えられ、健康のための3つの要素とされてきたところである。さらに、十分な睡眠をとり、ストレスと上手につきあうことはこころの健康に欠かせない要素となっている。
 うつ病はこころの病気の代表的なもので、多くの人がかかる可能性を持つ精神疾患であり、自殺のうち、かなりの数はこのうつ病が背景にあると考えられている。こころの健康を維持するための生活やこころの病気への対応を多くの人が理解し、自己と他者のために取り組むことが不可欠である。
2 基本方針
(1)日常生活や習慣の重視(全人的なアプローチ)
 健康が総合的なものであることを考えると、身体的な健康とこころの健康を統合した全人的なアプローチが重要である。そのためには、日常生活全般を視野に入れ、習慣や行動の形成や維持についての原理を明らかにする行動科学を理解し、それに基づく方法を導入する必要がある。

(2)行動科学に基づいたセルフケアの推進
 行動科学とその具体的な適用法である行動療法は、運動や食事、喫煙や飲酒など、身体健康に直接影響する生活習慣行動だけではなく、感情のコントロール、不適応的な認知の修正、対人技術や時間管理など多くの問題に有効である。これらに基づいてセルフケアを行うことが、ひとりひとりが全人的な健康を実現する助けとなる。具体的な方法としては、(1)達成可能な目標をたてる、(2)自分の行動や考えを観察、記録する、(3)望ましい行動を強化する、(4)望ましい行動をみちびくように環境を整える、など多くがあげられる。セルフケアを推進するために、行動科学の考え方や方法を普及することの意義は大きい。

(3)こころの病気への早期対応
 うつ病などのこころの病気には有効な治療法が確立しており、早く専門医と相談し、治療を始めることが重要である。しかし現実には、うつ病にかかった人のうち、ごく一部しか医療機関にかからず、その中でも、精神科医療を受けている人はさらに限られた数でしかないという報告がある。
 こころの不調は自覚できないことも多いので、周りの人が専門医へつなぐ役割を果たすことが必要で、また、体の症状を訴えて一般診療を受けることも多いので、かかりつけ医と専門医が連携することも必要である。
 


3 現状と目標
(1)こころの健康を保つ生活
ア 休養
 「休養」は疲労やストレスと関連があり、2つの側面がある。1つは「休む」こと、つまり仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復し、元の活力ある状態にもどすという側面であり、2つ目は「養う」こと、つまり明日に向かっての鋭気を養い、身体的、精神的、社会的な健康能力を高めるという側面である。
 このような「休養」を達成するためにはまず「時間」を確保することが必要で、特に、長い休暇を積極的にとることが目標となる。しかし、このような休養の時間を取っても、単にごろ寝をして過ごすだけでは真の「休養」とはならず、リラックスしたり、自分を見つめたりする時間を1日の中につくること、趣味やスポーツ、ボランティア活動などで週休を積極的に過ごすこと、長い休暇で、家族の関係や心身を調整し、将来への準備をすることなどが真の休養につながる。休養におけるこのような活動が健康につながる種々の環境や状況、条件を整えることとなっていくことから、今日の健康ばかりでなく、明日の健康を考えていくところに「休養」の意義付けをし、「積極的休養」の考え方を広く普及することが重要である。

イ ストレスへの対応
 個人をとりまく外界が変化すると、それまでと違ったやり方で新たに対応することが要求される。このような外界の変化はストレスと呼ばれ、さまざまな面で変動の多い現代は、ストレスの多い時代であるといえる。外界に起きた変化に適応しようとして内部にストレス反応とよばれる緊張状態が誘起される。これは、誰にでも起こることであり、いろいろな障害から身を守るなど、課題に挑戦する際に必要な反応である。ストレスの影響を強く受けるかどうかには個人差があるが、過度のストレスが続くと、精神的な健康や身体的な健康に影響を及ぼすことになる。
 「平成8年度健康づくりに関する意識調査」1)によると、「調査前1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合は、対象者の54.6%であり、ストレスを感じる対象としては、男性では、「仕事」があげられ、女性では仕事と共に、出産・育児があげられていおり、男女とも加齢とともに健康についての悩みが増加している。
 このデータは、ストレスの多い状況を反映していると考えられ、心身の健康を増進するためにも、さまざまな方向からの対策を行って、ストレスを経験する割合を低下させることが目標となる。
 このことから、職場や地域社会などのサポート体制を拡充するなど個人を支える社会的環境を整えることにより、2010年までに「最近1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合を1割以上減少することを目標とする。
 

○ストレスの低減
 ・「最近1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:54.6%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)

ウ 睡眠への対応
 睡眠不足は、疲労感をもたらし、情緒を不安定にし、適切な判断力を鈍らせるなど、生活の質に大きく影響する。また、こころの病気の一症状としてあらわれることが多いことにも注意が必要である。近年では睡眠障害は高血圧や糖尿病の悪化要因として注目されているとともに、事故の背景に睡眠不足があることが多いことなどから社会的問題としても認識されてきている。
 わが国では、成人の23.1%に睡眠に関連した健康問題があり、14.1%が眠りを助けるために睡眠薬やアルコールを飲むことがあると示されている1)。睡眠については、不眠を訴える人の数を減らし、睡眠薬などの助けなしでもよく眠れる人を増やすことが目標となる。
 このことから、2010年までに「睡眠によって休養が十分にとれていない人」の割合を1割以上減少するとともに、「眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人」の割合を1割以上減少することを目標とする。
 

○睡眠への対応
 ・「睡眠によって休養が十分にとれていない人」の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:23.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)
 ・「眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人」の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:14.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査(財)健康・体力づくり財団)

 

(2)こころの病気への対応
 こころの病には精神分裂病、躁うつ病、人格障害、薬物依存、痴呆などさまざまなものがある。そのなかでも、現代のストレス社会ではうつ病が大きな問題になっている。世界の人口のうち3〜5%がうつ病であるとの報告もあり、うつ病は一般に考えられている以上に広く認められるこころの病である。
 うつ病は、感情、意欲、思考、身体のさまざまな面に症状が現われる病気である。早期に発見されて、適切な治療を受ければ、大部分が改善する。しかし、患者の多くは自分の状態をうつ病から生じている症状であるとはとらえることができず、うつ病の治療を受けていないのが現状である。
 したがって、一般の人々や医療関係者がうつ病の症状や治療についての正しい知識を持つことが必要である。うつ病患者はまず一般診療科を受診する傾向があることから、一般診療科の医師は、うつ病を的確に診断し、治療に導入する役割を果たすことが重要である。
 ところで最近のわが国の自殺者総数は24,000人から25,000人で推移していたが、1998年には一挙に31,000人を超えた2)。この数は交通事故死者数の約3倍にも上り、自殺予防は精神保健の最重要課題の一つである。
 自殺はひとつの要因だけで生じるものではなく、多くの要因が絡み合って起こるが、特にうつ病は最も重要な要因であるといわれている。つまり、うつ病を早期に発見し、適切に治療することが自殺予防のひとつの大きな鍵になる。
 このことから今回自殺が急増した原因を明確にし、それらを排除することにより従前の25,000人程度に戻すことはもとより、さらに適切な治療体制の整備等を図ることにより、22,000人以下に減少することを目標とすべきである。
 
 

○自殺者の動向
 ・うつ病等に対する適切な治療体制の整備等を図り、自殺者を減少する。
   目標値:22,000人以下
   基準値:31,755人
(平成10年度厚生省人口動態統計)

 
4 対策
(1)こころの健康を保つための対策
ア ストレス対策
 ストレス対策としては、(1)ストレスに対する個人の対処能力を高めること、(2)個人を取り巻く周囲のサポートを充実させること、(3)ストレスの少ない社会をつくることが必要である。
 個人がストレスに対処する能力を高めるための具体的な方法としては、(1)ストレスの正しい知識を得る、(2)健康的な、睡眠、運動、食習慣によって心身の健康を維持する、(3)自分自身のストレスの状態を正確に理解する、(4)リラックスできるようになる、(5)ものごとを現実的で柔軟にとらえる、(6)自分の感情や考えを上手に表現する、(7)時間を有効に使ってゆとりをもつ、(8)趣味や旅行などの気分転換をはかる、などが挙げられる。
 個人が受けるストレスの影響は、配偶者や家族、友人、知人、職場や地域社会などのサポートによって緩和される。このためには、個人の側から、周囲の理解と協力を得ることができるようになることも重要であるが、求めに応じて個人を支えるような社会的環境を整えることも重要である。
 また、ストレスの大きさを個人の対応能力を越えないようにすることができれば、過度の影響が回避できる。このためには、社会経済的環境、職場環境、都市環境、住環境などをよりストレスの少ないものへと変えていくことが必要であり、ストレスの少ない社会をめざす社会全体の取り組みが必要である。
 一方、ストレスの解消や発散のために喫煙や過度の飲酒、過食などに走ると称するなど、一般にストレスが不健康な習慣の言い訳にされることがある。そのため、これらの生活習慣の改善に併せて、ストレスに対する個人の能力を高めることを、自己管理目標のひとつと位置づけて取り組むことが重要であろう。

イ 睡眠対策
 睡眠障害の危険因子としては、ストレス、ストレス対処能力の無さ、運動不足、睡眠についての知識不足などが挙げられる。
 睡眠対策としては、睡眠について適切な知識の普及、かかりつけ医が適切な対応をとれるようにすること、さらに、かかりつけ医と専門医との連携を充実させることが必要となる。
 最近発表された研究では、「眠いときだけ床に入る」、「十分に眠れなくても毎朝同じ時間に起きる」といった行動についての指導を受けた人について、睡眠薬を投与した場合に負けないだけの治療成績が示されており3)、このような日常生活における配慮だけでも、大きく睡眠障害の改善が見こめる。
 不眠は、一般診療において訴えられる場合が多いため、一般診療における適切な対応が必要である。

(2)こころの病気への対策
 自殺予防活動には、(1)自殺が生ずる前に対策を講じ、予防につなげること(予防)、(2)生じつつある自殺の危険に対して介入し、予防すること(介入)、(3)不幸にして自殺が生じてしまった場合に遺された人々に対する影響を少なくすること(自殺後の対応)が挙げられる。
 予防としては、職場や学校や地域を通じ、一般の人々に自殺の危険因子、直前のサイン、適切な対応法などについての知識の普及を図ることが挙げられ、特にうつ病の症状と、有効な治療法があることの理解を広める必要がある。また、かかりつけ医、保健婦、教師などは、自殺の危険を早期に発見できる立場にあることから、予防のための知識を持ち、さらに精神科医などの専門医との連携を図る必要がある。
 介入は、自殺の危険の高い人を早期に捉えて、迅速に適切な治療を受けられる環境を整える必要があり、まず精神科医療が充実することが前提となる。地域の保健医療関係者が協力して、自殺を減らすための取り組みを行い、自殺者が減少した事例もある(参考)。
 自殺が同じ場所で行われる傾向が見られたり、ある自殺に影響を受けて自殺が行われることが観察されており、特に自殺者の周囲の者に危険性が高まることが指摘されている。このような連鎖的な自殺を防ぐために、地域で自殺が生じた時には、周囲の人に対する支援や、適切な報道がおこなわれるようにするなどの対策を講じる必要がある。
 また、海外では、専門家が自殺のきっかけや自殺者の受けた治療などを調べて、自殺の背景を明らかにし、この結果を自殺予防に役立てる取り組みが行われており、わが国においても、有効な自殺対策を立てるために、死亡統計や警察庁の実施する調査では十分に捉えられない自殺の背景を明らかにする必要がある。
 


5.その他
 現状においては、国民全体をとらえる視点からの、休養・こころの健康に関する現状の把握や背景の解明が必ずしも十分とはいえず、今後の対策を進めるに当たっては、これらを対象とした調査・研究を充実させることが必要である。
◎目標値のまとめ
1.ストレス
 ・最近1ヶ月間にストレスを感じた人の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:54.6%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
2.睡眠
 ・睡眠によって休養が十分にとれていない人の割合の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:23.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
 ・眠りを助けるために睡眠補助品(睡眠薬・精神安定剤)やアルコールを使うことのある人の減少
   目標値:1割以上の減少
   基準値:14.1%
(平成8年度健康づくりに関する意識調査:財団法人健康・体力づくり事業財団)
3. 自殺者の減少
   目標値:22,000人以下
   基準値:31,755人
(平成10年厚生省人口動態統計)

参考文献
1) 財団法人健康・体力づくり事業財団.平成8年健康づくりに関する意識調査.1996
2) 厚生省.人口動態統計
3) Morin CM, et al. Behavioral and pharmacological therapies for late-life insomnia. JAMA, 1999;281:991-999
(参考)
新潟県東頸城郡松之山町において実施されている高齢者を対象とした自殺予防活動の概要

 高橋(新潟大学精神医学教室)らは、1986年から新潟県松之山町において、高齢者の自殺の背景にうつ病があることに注目した自殺予防活動を行っている。
 うつ病の程度についてのスクリーニング検査を行った他、町内の診療所医師や保健婦からも情報を得て、該当者に面接を行い、うつ病を診断した。うつ病と診断された高齢者の治療方針、処遇は精神科医が決定し、治療を診療所医師、保健福祉的ケアを保健婦が担当した。
 これらの活動の結果、自殺予防活動前17年間の松之山町の自殺率については10万対434.6人であったが、10年の活動後は123.1人と激減した。近隣の町村における自殺率に比較しても、有意な変化が認められた。
 高橋らは、人口規模の小さな特定の地域で老人自殺を予防するためには、自殺のおそれのあるうつ病老人を発見し、治療することが重要であると結論付けている。

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